☆宿屋敵
落語には旅の話がよく出てきます。旅とは普段の生活から離れるわけですから、面白い話題が豊富になってくるためでしょうか?
また、このネタには武士が登場しますが、上方の古典落語では結構少ないものでしょう。
【スジ】
旅の侍が疲れたので、宿屋で静かに寝られる部屋を所望した。そこで、奥の部屋に案内するのであるが、その隣の部屋には、伊勢参りの三人連れが泊まっていた。
開放感に浸っている三人なので、とにかく騒ぎたくて仕方がない。ドンチャン騒ぎをするわ、相撲を取るわと大騒ぎ。さらには女遊びの話で大いに盛りあがっていると、隣の侍から苦情があり、宿屋の主人に静かにするように言われる。
一時は静かになるのであるが、床でひそひそと話を始める。ところが、だんだんと話が盛り上がり声も大きくなってくる。すると、またも侍から苦情が出て、宿屋の主人に静かにするように言われる。
しかし、やはりおとなしくはしていられない三人である。調子に乗った一人が、でまかせの話をする。「昔、武家屋敷を得意先にしている小間物屋をしていたとき、ある屋敷の奥方といい仲になったのであるが、主人に見つかり手打ちにされるところを逆に相手の刀を抜き取って返り討ちにした」と自慢げに話をした。
これを隣で聞いていた侍が、宿屋の主人を呼びつけた。そして、自分は名前を変えて敵の小間物屋を探していたが、とうとう見つけた。隣の部屋の一人がその敵なので、逃がせば宿屋の主人も斬るので、首を洗って待つように伝えろと言う。
驚いた主人は自分が斬られてはたまらないと、三人にその話を伝えた。三人は、でまかせの話がとんでもないことになったと、生きた心地はしないのであるが開き直って寝てしまう。
「夜前は雑作であったな。これは宿賃じゃ。それからこれはその方に遣わす。また縁があったら会おう」
「え? ちょ、ちょっとお待ちを。預かっております三人をご覧ください。手前から源兵衛、清八、喜六となっておりますが、あの三人をどのようにいたしましょう」
「ふむ、旅立つと申せば立たせてやれ。泊まると申せば泊まらせてやればよかろう」
「日本橋の出会い敵は?」
「日本橋の...? うぉっほっほっほっ、伊八、ありゃ嘘じゃ 」
「ウソ!? そんな殺生な! わたい、三人後ろ手に縛り上げて布団部屋に押し込んで、夜通し寝んと番してまんねやがな。なんで選りによってそんなウソつきなはった」
「ああ申さんと、また夜通し寝かしおらんわ」