ようこそお越し^^

ラト

なに描こか?なに伝えよか?

素描 2

日記

鈍く光る黒金色のボディに、銀色と金色の装飾文字でメーカー名が刻印されている。
指でそっとその文字にふれ、まだ傷ひとつない天板をなでる。
椅子に座って足踏み台を踏んでみる。
軽い機械音とともに、ミシン針が動きだした。
その音に、彼女はかすかな満足感を覚えた。

退職金で買った真新しいミシン。
自分でそろえた嫁入り道具の中で一番高価な品だろう。
昭和30年代前半。
まだミシンを持っている女性は少なかった。
「自分にできることは全部する」
それが彼女のモットーだ。
普段着の洋服から、着物の訪問着まで。
新生活に必要な洋服と着物は、全部新調した。
結婚が決まってから、一ヶ月の早業だった。
文字通り、心機一転。
彼女にとって結婚は、そんな気分だった。

と、母が結婚前夜の気分を話してくれた。

結婚式当日。
一晩降り続いた雪がやみ、あたりは銀世界となった。
そわそわそわ。
立ったり、座ったり、タバコをふかしたり。
紋付袴の花婿殿は、檻に入った熊のごとし。
うろうろと歩きまわっては、恨めしそうに二階を見上げる。
花嫁の着付けに時間がかかってるせいだ。
女遊びもした。
一時は「女のヒモ」もしたらしい。
親友兼義兄と、いろいろいろいろ、やんちゃもしたらしい。
なのに、初体験の花婿役は、からっきしだw

「見えるんは天井だけやろうになあ」

花婿の親友兼義兄、つまり、私にとっての叔父が、当時の様子を話してくれた。
さもありなんと、私は思う。

  • ラト

    ラト

    2013/09/11 20:32:53

    ちっちさん
    デレデレな父と、ツンデレな母。
    新婚当時のエピソードも多数聞いております。
    そのうち書きますね^^

  • ラト

    ラト

    2013/09/11 20:31:06

    えてぃあさん
    若いころ、かなりシビアでシニカルだった母。
    父に普通の人生を歩ませたのは、母の力が大きいかもです。
    大きな子供みたいだったからなあw

  • ラト

    ラト

    2013/09/11 20:29:01

    沙羅さん
    自分でも深刻してましたからねw 我が父は^^:
    女のヒモを2週間やったと^^:

    結婚後、父は大阪で船を作ってた時期がありました。
    沙羅さんのお父さんが父の作った船に乗ってたのかもしれんねえ。

  • ちっち

    ちっち

    2013/09/07 23:55:22

    結婚する前からその後のお二人も想像できるようなw

    思わず、絵が浮かんで来そうな情景に 頬がゆるんでしまいました^m^

  • らてぃあ

    らてぃあ

    2013/09/07 23:36:37

    いい話ですね。しっかり者の花嫁に やんちゃだけど頼りない花婿、ほのぼの。

  • 沙羅

    沙羅

    2013/09/07 23:28:38

    なんというか微笑ましい新郎新婦だね^^
    ……にしても、随分とやんちゃなお父様ですなw

    とか言いつつ、うちの父も若かりし頃は心斎橋あたりでやんちゃをしてたと
    本人から聴いた記憶があったりするw
    若い頃は船に乗ってたから、大阪で遊んでたそうな^^
    当時は母も大阪に住んでたから、知らずにすれ違ってたりしてねw