フリージア

金狼の重圧 『エデン編』…9

自作小説

「ここは静かだな」
「ああ、この辺りは比較的治安も安定している所だからな」
二人ともお茶を飲み干すとユウジだけ席を立った。もうそろそろオアシスシティへ向かおうという気なのだろう。
雨は降っていないがいつふってもよさそうな程の曇り空。
「シンはオアシスシティのEM乗りの事を少し調べてくれないか?さっき言っていた同期の警官に聞くと言っていた話。それをよろしく頼む」
「ちょっと待てよ」
「ん?」
「さっき、俺パソコンいじってたろ?その時にその警官にオアシスにいるEM乗りの詳細を教えてほしいとメールしておいた。忙しくなかったら、もうそろそろ返事が来るかもしれないな」
「そうなのか?」
ユウジはすぐに座り直す。
「ああ、仕事早いだろ?…まあ、警察も縄張り争いみたいなのがあってな、なかなか他の警察区域との交流は無いんだけどさ…警官になりたての頃にオアシスで犯罪を犯した男がこちらに向かって来たことがあったんだよ。その時の捜査協力で知り合って、同じ年代って事もあって仲良くなってな。それからたまに上には内緒で情報交換しててよ」
「ふーん、いろいろあるんだな、警察も」
「ああ、でもあいつも仕事早いから、もう返信があってもいい頃なんだけど」
少し経つと、奥の机にある端末でメールを受信した音が鳴った。2人はすぐさま端末に向かい画面に目をやる。シンはメールボックスを開き受信したメールを確認する。
「なになに?」

「オアシスシティのEM乗りの詳細、ここ最近の事故の状況…3週間前から1週ごとにEMの単独転倒事故が1件ずつ起きている。こちらの地方新聞では小さな記事だが書かれている。その3名はろっ骨や足の骨などを折る重傷だが、命に別状はない。3名ともに単独で事故を起こしたと言っているが、レースでの事故であることはほぼ確かだと思われる。その3名はオアシスのEM乗りの中でもトップクラスであり、メトロポリスでのレースでも有名な男たちらしい………だとさ」

「確か、オアシスではあまりレースをしていなかったんだよな?」
「ああ、俺たちの頃もそうだったけど、オアシスの連中はメトロポリスまで遠征してくるのがほとんどだ」
ユウジは頭を抱えた、これはウルフが関わっているのだろうと。

「補足…オアシスシティでのEM乗りの事故は5年前に死亡事故があった以来、ここ数年ほとんどない…だとよ」

「それが、この3週間で3件の事故か…しかし単独事故だと」
ユウジはどうしてもウルフとは関係ない方向へと持っていきたがった。ウルフが復活したことは確かめたいが、ウルフが暴走を起こすことだけは信じたくないのだ。
頭を抱える手が、微かに震えている。
それを逃げてはいけないと諭すようにシンは付け加えた。
「メールにもあった通り、単独事故だなんて言葉は信じない方がいい。何かレース関連で事故をしたと思っていいだろう。俺たちだって、昔はそう言ってたからな…」

とたんにオアシスへ行くことが怖くなる。
ウルフが暴走を始めたのか?オアシスでもトップクラスの3人が事故…それもほとんど事故が起こらない所で…二人は信じたくなかった…