すずき はなこ

ホタルの墓場。

30代以上

事務所の前を、場違いな親子連れが通った。
どう見ても、成金のいやらしいオッサンと、
サングラス、ピンヒールの水商売系のオネエ、
その間をチョロチョロとする三歳くらいの男の子のワンセット。

直感で、「嫌な野郎だな」ということは分かったが、
通行止めのゲートの鍵を持っていたので、
地権者かと思い声をかけた。
消防からの連絡事項があったからだ。

だが、それに対する反応は、
居丈高、恫喝めいた大声、ガムを噛みながら横柄な態度、
外見の通り、嫌な野郎だった。
しかも、その嫌な野郎は、うちの隣地の所有者だった。
(初めて見た顔だが)

こんなものだ。
世の中、そうそういいことばかりあるものではない。
うちと小川一つ隔てた隣地で、
太陽光発電施設を建設するという。
去年あたりから、業者の下見は入っていたが、
海沿いの北向き、太陽光に向くはずもないと思っていたのだが・・・。

そのあたりは希少種のヒメホタルが生息する地である。
毎年初夏になると、乱舞する美しい光で、
訪れる人々の目を楽しませてくれたのだが、
おそらくコロニーは、破壊されるだろう。
いずれうちが買い取ろうと思っていたのだが、
間に合わなかったようだ。

来年の夏の夜は、
無機質なパネルが並べられるばかりの、
つまらない景色に変わってしまうのだな。
仕方がない。
残しておきたい場所だからと言って、
全部が全部、うちで買い上げられるものではない。
あいつが「嫌な野郎だ」という印象は、
小さなホタルたちでも、同じだろうなあ。

ごめんね、なんにもしてあげられそうにないよ。

  • すずき はなこ

    すずき はなこ

    2013/10/28 19:38:55

    残念ながら、同業者間情報では、良い噂は出てきませんでした。
    去年だったか、銀行関係が土地調査に来て、話しをしたのですが、
    かなりの根抵当権が設定されているうえに、
    「死に地」(使い道のない土地)で、どうしようもないと言っていました。
    だから、いつか買えるかなあと考えていたのですが、
    甘かった。

    残念です。

  • m-kenken

    m-kenken

    2013/10/28 16:44:21

    その人達が以外にも良心のある人達だと願うばかり。