フリージア

金狼の重圧 『エデン編』…13

自作小説

 もう夕暮れへと近づく、窓から流れる暁の光は部屋を照らす電磁的な光よりもよりも激しい。
 ウルフが好きな時間帯、二人の沈黙は続く。
 結果、二人とも当てがはずれた形となった。ユウジはミカミから情報を、ミカミはユウジから情報を得られると。
 「何故、君はウルフを探してるんだ?君たちにしたら忌まわしい過去のはずだろ?」
 「……数日前、金色のEMを目撃したと情報があったのがきっかけだ。俺はウルフの事をずっとタブー視してきたが、それは間違いだと思った。精神を取り戻したのなら、俺たちが迎えに行こうと思ってたんだ…その矢先に目撃情報があった付近でEM乗りの事故が立て続けに起きていると聞いたんだ」
 「…で、僕のところへ来たというわけか…」
 「闇雲に探しても見つからないような気がしてな……それにしても、あんた…なんでウルフの居場所を知らないんだ?」
 「………………」
 「あんた、まさか…ウルフを見捨てたんじゃ?」
 「…ウルフとは、もう三年会っていない…」
 先ほどとは全く違う印象のミカミ。あまりにも落胆した表情に哀れむ気持ちにもなった。
 「なんでだ?あんたはウルフの一番の理解者じゃないか?精神が崩壊した時もあんたが一番近くに…」
 もっと言おうと思ったが、ユウジ自身も後悔しているのにそれ以上強く言えなかった。
 「どうしようもなかったんだ…」
 普段表情を見せないミカミが悔しさを強く滲ませた。
 「僕は、あの4年前のゲームの映像をウルフに見せて、精神崩壊から復活させようと思っていた…君たちはまだあのゲームに妖しげな仕掛けがしてあると思っているんだろうが、それは一切無い。ただ、一つだけ嘘をついてた」
 ミカミはユウジの目が未だにあのゲームに対して不信を抱いていること分かっていた。二人の間柄では弁解しなくても構わないようにも思うのだが、ミカミはそれが悲しかったのだろう。その部分だけは語尾が厳しかった。ユウジもそれが分かったので、言及は避けた。嘘の部分だけに応えた。
 「…ウルフの速さか?」
 「ああ、そうだ。ウルフの速さ、テクニックは忠実では無かった。ウルフを意図的に負けさせるために。自分の負けた姿を見れば何かが変ると思っていたんだ…それでもウルフの戻らぬ姿を見て、どうしもようもなく怖くなった…」
 「で、ウルフから逃げたのか?」
 「……」
 沈黙は同意を意味していた。そして後悔している様子もあった。もう昔話は無意味だった、正直1分たりとも同じ空間に居たく無いと思っていたユウジが落胆したまま帰ろうとした時だった。
 「帰る前にこちらでも一つだけ掴んだ情報があるんだ…オアシスシティの刈谷パーキングエリアで頻繁に金色のEMの目撃情報があるらしい」
 素直じゃないな、あんたも探してたんじゃないかとユウジは思った。自分にも仕事がある、この男にも仕事がある。お互いに、その限られた時間の中で探そうとしているのだ。
 ミカミには重役としてこの会社で働いている。探す時間はほとんど無いのだろう。
 「ウルフを見つけてくれ、頼む」
 「自信は無いがやってみるよ、あんたのためにもな…」
 そうかっこつけてユウジは部屋を出た。手を握り締めると汗ばんでいた、ミカミとの短くて長い対峙は疲労感をも得ていた。しかし、前進とも言えない一つの光が大きく事態を進展させるのだった。それを知らずユウジはとりあえず家路へと向かった。