グイ・ネクストの日記帳

グイ・ネクスト

 グイ・ネクストのつぶやきなどを日記でつづっております。

 あと詩をつぶやいたりします

感謝の言葉を発信していきます

魔女アナスタシア

自作小説

プロローグ 秋元千鳥の告白…。

ああ、とうとう私はやってしまった。
二十歳から二十年一緒に付き添って暮らしてきた夫を殺してしまった。

それも夫を酒で酔わせ、泥酔したところに、以前からもらっていた睡眠薬を飲ませて山の上で寝かせた。

今は冬だ。ほどなく凍死するだろう。

捜索願いは昨日の夜に出した。

消防団の方には夫の好きな山を捜索するように頼んでおいた。

その山こそが夫を捨てた場所なのだ。

夫の遺影まで私はすでに用意していた。それをさりげなく仏壇に飾る。

ああ、私は悪魔に魅入られてしまったのかもしれない。


その証拠に「アナスタシア」と言う死んだロシアの皇帝の名前を持つ少女が家の中にいる。

驚く事に私と同じ金髪だ。それも彼女の方が髪は長い。

私たち夫婦には子どもなどいなかったが…これも何かのイタズラだろう

秋元アナスタシア…。ふふふ、おかなしな名前ね。

でも、それでもいいわ。

私が夫を殺している間に彼女はカギのかかった玄関のドアを開けて、私の娘の振りをしている。

不思議なところは…私は彼女とひと言も話していないのに、彼女の名前を知っているという事。

何か魔法でもかけられたのかもしれないわね…ふふふ。

それもいいわね…私が殺人者である事には変わり無いのだから。


 魔女アナスタシアの朝
 
 「おはよう」

 知らないおばさんが、私に向かってやさしく微笑む。
「おはよう、母さん」と、呼んでみる。
「あら、アナスタシア。珍しいわね」と、おばさんは私の作った記憶から答えを導いてくれる。
 
 この家には他に家族はいない。このおばさんは結婚もされていたようだったが…遺影を見る限り、何かしら事故でお亡くなりになられたようだ。孤独にうちひしがれた女性の心の隙間に入るのはたやすかった。
魔術とはこうやって使うのだ、と、私は勝ち誇り、コーヒーを飲んだ。

「アナスタシア、今日母さん遅くなるの。あなた、一人で食べる事になるけどいいかしら」
「ええ、母さん。ちゃんと留守番をしているわ」
「でも…アナスタシア。もしも食べたくなったら、冷蔵庫のモノを自由に使っていいから食べてね」
「はい、母さん」
 私と同じ金髪の髪をしている女性。
 目元もそっくりだ。
 ただ私と違って髪は短い。
 おばさんの名前は秋元千鳥という。
 彼女の母がロシア人だそうだ。
 それにしてもその娘である私が「アナスタシア」…。
 
 おかしいと思わないのだろうか?いくら魔術をかけたとはいえ
 それはこの魔法陣の中での事。
 そう、この家を一歩出れば「私」の事など一切がっさい忘れてしまうというのに彼女はそれを理解しているのだろうか。
 まあ、出かけてからが、見ものだ。
 ここは姿を消して尾行してみるか。
 私は自分の頭上に移動型魔法陣を描き、透明化の契約を結ぶ。
 秋元千鳥は手提げカバンを片手に私に挨拶をして出て行った。
 さあ、ここから魔法の効果は消える。
 外に出ると、秋元千鳥はまだ玄関の門のところにいた。
 玄関のドアを見て、つぶやく。
「今日はアナスタシアの誕生日…あの子と出会った記念となる日」
 ……私は背筋に寒気を感じた。
 私の魔法陣は全くこの女性に効いていない。
 この女性は私が偽の家族であると理解している。
 理解していてなお、家族であろうとしてくれる。
 それも今日という日を誕生日にしてくれるなんて・・・。
 これではこの人を呪えない。
 私は魔女だ。人を呪ってこそ、私なのだ。
 逃げ出すか・・・。
 いや、誕生日・・・祝ってもらいたい。
 私は何百年と生きてきたが、祝ってもらった事など一度も無いからだ。
 それは私の望んできた事だ。魔女は「愛」を受け取れば「死ぬ」今まで何度か見てきた。呪うことをやめて、愛を受け取って光の粒となって消えていった先輩魔女たちを。
 私もああやって「死にたい」と。
 それがもうすぐ叶おうとしている。
 もしかしたら夢を見ているんじゃないか。
 誰かが私に幻想の魔法をかけているんじゃないのか。
 そうだ、私の魔法陣は秋元千鳥ではなく、私自身に間違えて「呪い」をかけてしまったのかもしれない。ってそれじゃあ、ますます秋元千鳥はいい人じゃないか。これは夢じゃない。私はもうすぐ「死ねる」のだ。

秋元千鳥とげん婆さん

私は玄関を出てすぐに「アナスタシア」のためにケーキを買う事を決めた

しばらくは彼女にいてもらいたい。

私はよく通うデパートに向かって歩いた。

一分も歩かないうちにげん婆さんに出会う。
「千鳥ちゃん、あなた旦那さん、山に登ったまま帰ってないんだって」
「そうなんです。大変なんです」
「もしかしたら魔女でも来てしまったのかもしれないねぇ」と、げん婆さんは山の方を見上げる。
「魔女ですか?」と、私は首をかしげる。
「そうだよ…知らないかい。何でも魔女の最後に立ち会うと、魔女になれるらしいよ」
「都市伝説か何かですか?」
「そうさねぇ…わたしの死んだ婆さまが話していた事だからね」
「もしもいるなら会ってみたいですね」
「ははは、およしおよし。魔女っていうのは人を呪って生きているんだよ。そんなのに会ってもダメさ。それよりも旦那さんとは生傷の絶えない喧嘩をよくしていたあんたにもやっと運が巡って来たのかもしれないよ」
と、げん婆さんは私の肩をポンと叩いて頷いてくれた。
その何気ないひと言が…今まで我慢してきたモノが壊れて…私は泣いた。

「千鳥ちゃん、よくがんばったねぇ。よく耐えたねぇ…ほらほら、よそ行きのカバン下げて来ているんだから姪っ子か、甥っ子でも来ているんだろ?急いでデパートに行ってやりな」
「はい」と、私は涙を拭いてげん婆さんに会釈をして、また歩き出した。


魔女アナスタシアの休日

 私はいつものように過ごした。この時代になってからできたテレビというモノのチャンネルを回して好きな番組を探した。
「地域放送です。現在、行方不明となっていた登山者、秋元習字さんが死体として発見されました。」
 へえ、たしかこの家の女性、秋元千鳥と同じ性だなぁ。
 続いて写真が現れる。
 私は目を疑った。
 仏壇のあった部屋へ駆けて行く。
 遺影を持って、テレビの写真と見比べる。
 そっくりだ。
 どうして今日死んだ人の遺影が…今ここにあるんだ。
 もしかして千鳥さんは…旦那を殺してしまったのか。
 それも計画的に。
 そうか…彼女もまた魔女なのか。
 私と同じ魔女。
 だから私の魔法陣を見破ったのか。
 その上で私を祝ってくれるのは…私にアリバイを作って欲しいのかもしれないな。
 チャイムが鳴った。お客さんか。まあ、今はここの娘だし。
 出るだけならいいか。
 私は遺影を元に戻してから玄関へ向かった。
 入って来たのは千鳥だった。
 片手にケーキと呼ばれるモノを持っている。ほんとに私の事を祝ってくれるみたいだ。
「ちょっと早く帰る事になって…そうそうケーキを買って来たの。今日はあなたと出会った、いえ、あなたの誕生日でしょ。アナスタシア」と、千鳥は言ってくれる。
「ええ、ありがとう、母さん」と、私はほほえむ。
用意されたバースデーケーキには「魔女アナスタシア」と書かれていた。それを見た途端、私の心は満足してしまった。
手が消えて行く。足も消えて行く。身体が光の粒へ変わって行く。
私は死んだ。だが…私にはもう一つだけやることが残っている。


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