小説その2 「花埋み」から抜き書き
『この年、入校を機にぎんは自分の名を「吟子」と書くようにした。
すなわち「荻野吟子」である。
ぎんは自分も含めて女達の名が犬でも呼ぶように簡単に扱わ
れるのが前から不満であった。女の名は呼び易く、仕事を言い
つけるのに便利にしただけの符号にすぎない、といった考えが
横行していた。
「女だって、男と同様に漢字で堂々と書かれるべきである」
甲府へ行って様々な女学生の名を見て、ぎんは一層その思
いを深くした。この娘達が一生「やい」とか「せい」と言葉少なく
呼ばれ続けるかと思うと情けない。これは延々と続いた、男尊
女卑の現れの一つに違いなかった。それを思うとぎんは無性に
腹立たしかった。
「ぎん」では新しい時代を切り拓く女の名としてはいかにも迫力
がない。考えた末、十日目からぎんは勝手に自分の名を吟子と
書き出した。』
大潮
2014/01/22 09:57:41
渡辺淳一さんが、北海道出身で、医者ということでしょうか。
同世代の友人が「自分は恵まれていたから医者になれたと感じている」というほど
現代でも女性が医者になることは性差別が伴うものです
「ぎん」は強い意志をもち障碍を乗り越える行動力を紡ぐために
「吟子」という名前を自分に与えたのだと納得できます
女性にとって、心の傷をえぐらなければ読めないテーマです
ブライアン
2014/01/21 08:11:44
渡辺淳一ですか。
北海道つながりで、荻野吟子を書いたのでしょうね。
何か女性の情念のような激しさ、強さが胸を打つ作品ですよね。