大潮

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伏見稲荷 その7 -京都スピリチュアルツアー

自作小説

「経丸、もうひとつ石があるかな。伏見の水の紋様を書きたいんだ。」
経丸は実留に微笑みかけた。
「どんな紋様?」
実留は宙に紋様の形を書いた。
「それは、ほら、ここにもある。すごいね実留!実留ならわかるんじゃないかと思っていたけど、本当にわかるなんて」
経丸が指さした足元を見ると、確かに実留が書いた紋様と同じ紋様の形に石が組まれていた。紋様の中心に水が流れ込んでいく。
山から流れ込んだ水は緑の苔に囲まれた水場を通り、らせんを描きながら地中へと流れこんでいるのだった。

「頭の中にテレビ画面のように浮かんできたの。こんな風に紋様が作られているなんて!これは経丸たちが作ったものなの?」
「親方の前の親方が作ったものだよ。」
佳にはただ石が敷き詰められているだけにしか見えない。
さっき実留が空中に書いたものをどうやって重ね合わせたら、同じ形に見えるのだろうか?
実留が経丸に聞く。
「さっき、わたしが感じた泉が湧くような空気を感じる大きな石も経丸たちが作ったものなの?」
「あの石は昔からあそこにある。あれはもともとの石の力なんだ。今日は春分の日だから、今日動き出した。」
「この紋様は関係あるの?」
「あると言えばあるけど、直接は関係ないな。ここに紋様があろうがなかろうが、あの石はああいう石なんだ」
佳がピンと閃いた。
「注連縄が張られているってことは、昔からあの石の力を感じた人がいたってことだね」
「そう、あの石はいつまでも変わらない。若いんだ。ここにいると若返る。石だけじゃないよ。この土地は稲荷という名前がつくほど作物が実った。植物だけではないよ。水もだ。細胞が若返る。この山は力を持っているんだ。」
「石の細胞ですって?石に細胞なんてあるわけないじゃない。」
佳は一瞬黙り込んで、やっと言葉をつなげた。
「わたしは、子どものころ自分の経験を話して誰からも信用してもらえなかった。親にも」
「わたしもだよ。否定されてしまうことは悲しい」実留もうなづく。
「わたしの言葉の中の意味だと、違うものを連想してしまうの。違う言葉で言ってみてくれない?」
「石は生きているんだ。知っているでしょ幸神社の石とあの石は違う。ひとつひとつ違う力を持っている」
実留はわかるようでわからなかった。確かに石にはひとつひとつ違いがある。それは生きているということなのだろうか?
「細胞が若返るっていうのは、石の質も老化して変わっていくっていうこと?」
「そうだよ。石は人間よりも長生きだけど、生まれて老人になって崩れ落ちて土に還っていく。人間は土に還る風習を持った人がすくなくなったけど、石は地球から生まれて地球にもどっていく」
石が生きていると言われれば、さっきようようと流れる大気と感じたものは石の脈動というのだろうか。実留は確かに感じている。石は人間が呼吸するように、血が流れるように活動しているのだろうか。
「実留が伏見の水の紋様を書いてくれるなら、深草の石のある場所に行こう。そこには通音石もあるから。」
ー続くー