日本妖刀列伝:弐
讃岐京極家には「京極にすぎたるものが三つある にっかり茶壺に多賀越中」という狂歌が残っている。
この歌になっているにっかりこそ、今回の刀『にっかり青江』なのである。
この刀、幽霊を斬ったとされる退魔の刀なのだ。
今回はこのハイセンスな名前の刀にまつわる物語を語ろう。
時は戦国、今の滋賀県近江八幡の辺りに、中島という名の領主がいた。
彼の領地内では、たびたび幽霊が出たという噂が立っていた。
最初は戯言だとたかを括っていたが、
噂にしてはあまりに信憑性が高く、目撃者の数も日々増えていく。
「こうまで噂になっては棄て置くわけにもいかんか、ひとつ幽霊退治と行くか!」
とひとり深夜、手練れの一刀備中青江鍛冶の業物を腰に足音高く山へ踏み入った。
月は生憎の新月
真っ暗闇の夜道を、中島は四方に眼をくばりながらゆっくりと山道を辿っていった。
どれほど登っただろうか?
傾斜がやや緩くなって来たところで中島は向こうから誰かやってくる気配を感じた。
「何奴か?」
中島は石灯籠の影に身を隠し気配が近づいてくるのを待った。
しばらくして石灯籠の淡い光に照らし出されたのは子供を抱いた女の姿だった。
女は目ざとく中島の姿を見つけると、
子供を地面に降ろし、にっこりと笑っていた。
「さぁ、行ってお殿様に抱いておもらい」
女がそう言うと子供はよちよち歩いて領主に抱きついて来ようとした。
「これが噂の化け物か!」
そう直感した中島は、刀を抜き真横に薙ぎ払った。
けれど刀が子供に触れたその刹那、煙に巻かれたように子供の姿は消えてしまった。
手応えは確かにあった。 けれども斬ったという実感がない。
「なんだこの違和感は」
目の前で起こった現象に中島は戸惑った。
すると今度は女が
「私も抱いて!」
と、にっこり笑い首をかしげながら近づいてきた。
「お前もか!」
中島は返す刀で今度は女を再び横に薙ぎ払った。
手応えはあった、けれどもまた子供を斬ったときと同じように
女の姿は霞のようにぼやけて消えてしまった。
「珍妙なリ…」
中島はすぐにその場を離れた。
翌朝早く起きた中島は、昨夜斬って捨てた化け物の死体を確かめに現場へ向かった。
けれど、子供や女の死体はそこには転がっていなかった。
「手応えはあったのだ、絶命とは行かずとも手傷くらいは…」
目を凝らして地面を見てみるが、そこには血痕一つ残されたはいなかった。
「はて、これは一体?」
現場の隅々まで、見て回る中島の目に意外なものが飛び込んできた。
そこには苔むした石塔が二基並んで立っていた。
そして二つとも首とおぼしき所から切り落とされ、その上部が下に転げ落ちていたのだった。
「幽霊の正体見たり! 枯れ尾花とはこのことか!」
中島の笑いながら現場を後にしたのだった。
彼が斬ったのは、果たして幽霊だったのでしょうか?
それとも枯れ尾花だったのでしょうか?
これ以後、彼の領地で幽霊の噂は立つことがなく
物の怪を斬った刀は退魔の刀『にっかり青江』と名づけられ後世へと伝えられていくのだった。
幽霊を斬ったと噂になったこの刀は、その後様々な人の手を渡り歩く
柴田勝家、柴田勝敏、丹羽長秀、豊臣秀吉、最後には讃岐丸亀藩主である京極高次へと渡る。
丸亀城は幽霊・妖怪出没の噂のある城だったが、
幽霊斬りの伝説を持つこの刀のお陰なのか、その類の話は聞かれなくなったという。
さらに驚くべきことにこの刀は現存する。
江戸時代に製作された金梨地糸巻太刀拵の外装と共に丸亀市立資料館に所蔵されており
現在もその退魔の力を発揮し続けているのかもしれない……。
日本妖刀列伝:弐 『にっかり青江』
恭介
2014/04/14 02:29:53
Re:さくらさん
この手の話好きでしたか~
また何か書いて見ます。
恭介
2014/04/14 02:28:11
Re:葉月micanさん
個人的には、この話の幽霊はうらめしくて出てきたのではなく
狐に化かされたほうではないかと思ってます。
ウグイスパンはなんで揚げたかな・・・。
さくら
2014/04/13 09:03:44
こちらもなんとなく夢のあるファンタジックなお話ですね
私も雨月物語を読んでみたいと思っているし、泉鏡花大好きなので
この手のお話が好きです^^
葉月mican
2014/04/13 01:07:14
こんばんは~^^
時代物の幽霊話などを読むと いつも思うのですが
「幽霊を退治しよう!」と刀を抜くという発想が いかにも男性的ですよね
出てくるのは殆どの場合女の幽霊なのにもかかわらず・・・
なので葉月はいつも 退治した武勇伝ではなく
何故に幽霊となってうらめしく出てこなくてはならなかったか
こちらが気になって気になって考えてしまうのです^^
あ 「ウグイスアゲパンツクッター!」 食っちゃってくださいませ~^^きしし
恭介
2014/04/12 14:02:34
Re:凛花さん
逸話ですから、信頼性はかなり怪しいですね。
斬った人も実は何人か候補がいて、だれなのかよくわかってません
幽霊なのか、キツネかタヌキに化かされたのか?
色々受け取りかたがあるようで面白いですね。
雨月物語いいですね。 結構読み応えもありますよね
恭介
2014/04/12 13:59:11
Re:みんさん♪
刀にまつわる伝承は、本当に色々あって楽しいです。
この刀は本当に数奇な運命を辿っているのですよ。
持ち主を次々変え、刀身は磨き上げによって当初よりも
随分短くなって現存しているようです。
凛花
2014/04/10 11:35:11
こんにちは^^
本当にあったのでしょうか・・
この前、雨月物語の本が気になって読み上げたところでした。
魂はそれで、救われたのでしょうかね・・・
みん♪
2014/04/10 07:54:24
こういう物語があるんですね!?
刀が現存するって驚きです@@
幽霊を切ったとしたら、すごい刀ですね^^