ひまわり畑を眺める一匹猫

招き猫

猫はただ、風に吹かれながらひまわりの花を観ていました。
まるで懐かしいぬくもりを思い出しているかのように。

地上の波season2 ⑤

自作小説

この事件のもう一人の当事者である友子はその後、会社から懲戒解雇処分を受けたのだった。

虚偽の証言によって、会社に多大な損害を与えた事によるものだった。

その解雇理由は、通常保障する事になっている1か月の給与保証も無く解雇する事にも、十分すぎる内容だった。

その後の友子の心情については、誰も知る所ではなかった。

もっとも、関係者で友子に連絡をする者は皆無だった事が、その理由の大きな部分だった。

 

 

1か月後。

萩原証券の定期調査を終えた八野は、サービスも料理もファミレス化してしまった社員食堂には目もくれずに、一人酒井の店「ビストロ べいりーぶす」に足を運んだ。

明るく元気に働く日野も、そしていつものようにマメにそつなく動き回る酒井も、以前のような笑顔で八野を迎えた。

 

「あれぇ?八野さん、今日はお一人ですか?」

 

「うん、うるさいのは置いて来たけど、後から来るかも知れない。日野クン、どうだい?ここでの仕事は」

 

「いや、おかげさまで酒井チーフには勉強させていただいてますよ。」

 

「日野ぉ~謙遜すんな。八野さん、彼はなかなかですよ。もうディナータイムは一人で任そうかと思ってる位ですよ。」

 

「順調じゃないか、酒井さん。ねぇ、日野クン、今日のランチは何だい?」

 

「はい、今日は白身魚フライとチキンソテーのトマトソースです。」

 

「うん、じゃそれ。アフターは・・・」

 

「はい、コールコーヒーですね。」

 

店はあの頃の社内の食堂と同じ雰囲気だった。

やはり酒井という人物の人柄と魅力が、周囲をそうさせているのだろう、と八野は思った。

友子にあれだけの事をされて、それでも友子を案じた酒井の人柄。

八野は酒井という人物が好きでならなかった。

また、友としてこれからもずっと付き合っていきたいと考えていた。

 

ビストロべいりーぶすは、オフィス街にある小さな店。

ランチタイムはそれなりに賑わっていたが、それを過ぎると食事をメインにしているだけあって、客は見込めなかった。

酒井は14時を過ぎると一旦店を閉め、夜の仕込みと自分と日野の休憩の時間に当てた。

八野が来店したのは13時を回っていたので、食事が終わるとすぐに閉店の時間になった。

カウンター席に座る八野に、そのカウンター越しに酒井が声をかけた。

 

「ねぇ、八野さん、ウチの料理はあの頃と比べてどうですかねぇ?」

 

「正直に言っていいっすか?」

 

「もちろん、言ってくださいよ。」

 

「うん、味もサービスもあの頃のままですよ。しかし・・・メニュー構成に斬新さが無い。今日のメニューにしてもさ、クォリティは確かに高いが驚きも楽しさも無い。ついオーダーしたくなるような感覚とか、料理が出てきた時の驚きが無いと思うな。メニューブックだけ見たらさ、ファミレスと変わらんもん。」

 

「そう・・・ですかぁ。日野と相談して、色々と考えているんですけどね・・・。ひとつ日野から案があってね、夜の営業は食事主体ではなく、ビアレストランとして食事とオードブル、そしてお酒を出して見ようかと思ってるんですよ。日野をマスターという形にしてね。夜ももう少し遅い時間までやってみようかってね。」

 

「いいじゃないか、酒井さん!でも日野クン、そんなに働いて大丈夫かい?」

 

「ええ、僕は若いですからね、大丈夫ですよ。」

 

「何だよ、おっさんを敵に回すなよ!」

 

「あ、いや、そう言う意味では。」

 

「あはは、でもさぁ、そうすると余計メニューの幅広がるよねぇ・・・。なぁ、酒井さん、そういうのにうってつけの人材がいるんだけどさ、雇ってみないか?」