恭介

もうひとつの夏へ (4)

自作小説

2人は宙に舞った。佳代を抱きかかえるようにして、左肩から地面に叩きつけられた。
衝撃を防ごうと、手を後ろへ伸ばそうと考えたが、結局佳代の保護を優先してしまった。

「痛ぅ・・・」
激痛のあまり、そのまま、のたうちまわり仰向けに転がった。
(ヒビくらいは入ったかもな)
牛乳と小魚は食べておくんだったと、少し後悔をする。
(佳代は?)

辺りを見渡すと、すぐ隣で尻餅をついた格好のままきょとんとしていた。
怪我も無さそうだった。
(変なとこで暴れるから、予定が変わっちまったな)
無事は確認出来た。右手で左肩を抑えながらゆっくりと立ち上がる。
だがそこで、ハっと気づいた。
(しまった・・・。時間は?)
時計を見る。
時間は・・・すでに過ぎてしまっていた。

この時間では、8年前の僕はF5通路から50mは離れているだろう。
(急いで追いかけないと)
体制を整えると、きょとんとしたままの佳代へ歩み寄った。
2歩、3歩、佳代の腕を取ろうと手を伸ばした。

だが、その刹那に僕の頬に鈍い痛みが走った。
何が起こったのか、その時はわからなかった。
だがすぐに理解する、殴られたのだ。・・・誰に?
その疑問もすぐに解ける。
なぜならふっとんだ僕が見たのは、鬼の形相でこちらをにらみ付け、佳代を抱えあげる8年前の僕だったからだ。
(そうか、佳代の悲鳴が通路の向こうまで届いたんだな)
安堵のため息をつくと、そのまま大の字で少しの間寝転がっていた。
(ったく手間かけさせやがって)


2人が何処かに走り去ったのを見送ると、ゆっくりと立ち上がった。
殴られた頬をさすりながら
「別に消えたりしねえじゃん」
ここにいる誰一人理解できないであろうセリフを吐いた。
そのセリフをかき消すには、十分なほど野次馬が集まりそれぞれが声を上げていた。
(そろそろ潮時だ、立ち去ったほうがいいだろうな)
辺りは騒然としていた、駅員が駆けつけるのも時間の問題だ。
慌てて立ち去ろうとする僕の前に、可愛らしい封筒が落ちていた。
大して気に留めず立ち去ろうと思ったのだが、どこか引っかかるものを感じた。
(これは・・・。)
よくよく見ると、この封筒には見覚えがあった。
(これは、8年前、僕が佳代に渡そうとしていたラブレターじゃないか?)
素早く拾い確認する。やっぱりそうだ。
手紙を懐にしまうと急いで駅を後にした。

安全圏と思える地点で振り返ると、駅はずいぶん小さいものに見えた。
まるで微細な塵が空に舞うように、多くの人が出入りをしていた。
(まあ、結果オーライだったな。)
そう思うと、なんだかすごくいいことをした気分になった。
近くの公園でベンチに腰掛けて、ひといきつく。
ベンチ前の広場では、子供たちが口々に何かを言い合いながら遊んでいる。
懐から手紙をだして見つめる。
「懐かしいな」
結局出すこともなく捨てられたラブレターそれを再び手にしている。
恥ずかしいような、懐かしいような不思議な感じだった。
(何書いてったっけ?)
ハート型のシールを裂くと中から手紙を取り出してみた。

「佳代へ

      君の言葉が、まだ頭から離れないよ

      さっき、分かれたばかりだって言うのにさ

      別れてから、もうどれ位経ったのだろう

      次会えるまであとどれ位あるのだろう

        いつもそんな事を考えていた。

   この手紙を読んでいる頃には、もうあの土地にはいないだろう。

        それでも、覚えていよう

   二人で浴衣を着て出掛け、雨に降られて行ったあの港の公園を
     
     言っておくけど、雨女は佳代のほうだからな。

            忘れないでいよう
       
      二人でお弁当を食べた、あのベンチを

        普通に美味しいとか言って怒らせたり

      じゃがいもが苦手で、笑われたりしたよね。

   いつかもっと大人になってじゃがいもが食べれるようになったら

             結婚しようね

     ps、卒業式で渡すはずだった第二ボタンを入れておきます。
                               
                                       恭介より」

手紙の中から、制服のボタンがコロリと転がり出てきた。

この手紙を佳代は読んでいない、これから読むこともないだろう。
現在でも、過去でも・・・。
そう思うと、この手紙が、ひどく悲しいものに思えた。
気づくとベンチで泣いていた。

そんな光景を不審に思ったのか、子供を半身で抱きながら、こちらを睨んでいる主婦が3人いた。 
別に悪い気はしない、ああやって子供を守っているのだからな。 
佳代もああゆう強い女性だったのだろうか? 
現代の佳代のことを、あまりに知らない自分に驚いた。



 

  • 恭介

    恭介

    2009/11/05 18:11:23

    Re:もみじさん

    ラブレターは結構がんばりましたwもうすぐ終わりですね、最後までどうぞお付き合いください。

  • もみじ

    もみじ

    2009/11/04 23:00:21

    いいですね。このラブレター♥♥
    そして、せつない・・・・

     ううっ・・・佳代さん・・・死んじゃいや~~

  • 恭介

    恭介

    2009/09/12 15:30:24

    Re:花音さん

    そんな想い出があるのでしょうか?

    読み直してみました、結構切ないですね・・・。

  • 花音

    花音

    2009/09/12 07:30:16

    切ないですね・・・・・。トリップしてシンクロしてしまいます。

  • 恭介

    恭介

    2009/08/30 14:37:13

    Re:ごえっちさん

    もしかして・・・。知り合いの方に似てるのでしょうか?

    モデルの方に聞いたところ、本人は晴れ女だと言い張ってました。

  • ごえっち

    ごえっち

    2009/08/30 09:20:48

    雨女の佳代。うーん。ますますびっくりした。
    その佳代ってもしかして…。

  • 恭介

    恭介

    2009/08/30 04:36:09

    Re:@まるこさん

    展開は気になるでしょうが、まだ秘密です。手紙は、僕としてもかなり良く出来たと思います。

    実体験とリンクした部分も多いので、そこを探すのも面白いかもしれません。

  • 恭介

    恭介

    2009/08/30 04:33:39

    Re:ちょこあいす さん

    いつもコメントありがとうございます。8年前の改変は上手く行ったようですが、これで何か変わるのか?

    そもそもコレは、なんだったのか?謎は深まるばかりです。もう少しだけお付き合いください。

  • 恭介

    恭介

    2009/08/30 04:31:20

    Re:Sakura さん

    当初予定していたよりも、ずいぶんと大掛かりになってしまいました。

    現在は4話まで来ましたが、6話で終わらせようと思います。また読みに来てください。

    第二ボタンは、とある人のリクエストです。

  • 恭介

    恭介

    2009/08/30 04:28:40

    Re:にゃんぴちさん

    いつもコメントありがとうございます。

    過去か、夢か、幻か?もしかしたら明かされないまま終わるかもしれません。

  • 恭介

    恭介

    2009/08/30 04:26:30

    Re:柚留さん

    1から4まで読まれたのでしょうか?確かにまとめて読むとかなり長いかもw

    想いが積もってるって不思議な語感ですね。柚留さんのセンスも素晴らしいです。

  • @まるこ

    @まるこ

    2009/08/30 02:38:19

    どこかに走り去った二人。
    過去に残された現代の恭介。
    これから現代に戻るのか… 戻った時にふたりはどうなっているのか…
    佳代はやはり死んでしまうのか…
    非常に気になりますw
    手紙、恥ずかしいくらいかっこよくできてると思いますよw

  • ちょこあいす

    ちょこあいす

    2009/08/29 23:51:47

    8年前の恭介さんが 佳代さんに会えてよかったなと思うのに 
    胸が痛くなりました(ノД`)・゜・。
    どうしてでしょう;;  

  • Sakura

    Sakura

    2009/08/29 22:26:37

    長っ!!
    ラブレターの内容がカッコイイ…
    PSの内容がおもしろいね

  • にゃんぴち

    にゃんぴち

    2009/08/29 11:45:40

    手紙

    彼女は読むことは無いんだ…

    ってことは、たとえ駅であったとしてもその先は…

    恭介は本当に過去に戻ってしまったのか、それとも幻のようなものなのか

    そこが気になる…

    って、それはこれからだよね~

    つづき たのしみにしてます~♪

  • 柚留

    柚留

    2009/08/29 10:12:54

    長い・・・・・。

    想いが積もってる☆