それは朝の通勤電車の中での、女性どうしの掴み合いの喧嘩です。学生が冬休みに入って、空き気味の電車でした。私はいつものようにラジオニュースを聞きながら、この時期の特典で椅子に腰かけ、目をつむっていつしか居眠りをしていました。ある駅で乗ってきた客でしょう、私の横の一人分の空きスペースに、ドカーンと尻を打落とすように勢いよく座ったのです。私はその衝撃で目を覚まし、なんと行儀の悪い人だなと一瞬思いました。アキスペースの私の反対側の女性が「痛い」と声を上げ、行儀の悪い座り方をした女性に「あやまりなさい」と言うと、「お前の座り方が悪い」とか、口喧嘩が始まり、ついには掴み合いの喧嘩となったのです。行儀の悪い方の女性がもう一方の女性の髪の毛を掴んでシートに組み伏せ、大音声でわめくわけです。
  私が「やめなさい」と言っても見向きもせず、凄みのあるどすの利いた罵声をあびせかけているのです。とても現実の出来事とは思えません。他の乗客が駅員さんを呼び、3～4人掛で二人を下車させました。
   いったい何でそんな喧嘩になってしまったんだろうか。よほど日頃の不満が積み重なっていたに違いない。また何が、それぞれに女性としての「しとやかさ」やエレガントさを保とうとする心の余裕を失わせてしまったのか。はしたない言葉のかけあいと掴み合いをした事に、さぞかし悔やんでいることだろう。
   格差社会と言われる昨今、その格差の低い方に自分が立っていることに納得できなくて、どうにももがいても出口が見えない、そんなイライラが、クリスマス商戦が華やかに盛り上がっているこの時期、爆発したのかもしれない。
   貧しくても家庭が温かければ、その温かさの中から心に余裕が生まれ、豊かな生活を築く前向きな営みを築くことができる。
   今朝の二人は40歳前後だった。多分一人でアパート住まいをしているのだろうか。もしそうなら、ムシャクシャする気持ちが、我を忘れさせてしまったのかもしれない。