その後、彼女から時折電話を貰う事になる。
相も変わらず、誰かに監視されているかも知れないといった内容。
それでも私は全てを肯定し、話を聞いてあげた。
私が聞くことで、彼女が少しでも安心してもらえたら。
少しでも安らぐ事が出来たなら、と言う気持ちで話を聞いてあげた。
やがて、電話では・・・という事になり、どこかでお茶でもという事になる。
全くの無報酬の仕事になってしまうが、これも乗りかけた船、である。
何度かファミレスで話す機会の後、彼女からの電話はパッタリとかからなくなった。

彼女の精神が安定の方向に向かったのか、あるいは別の頼れる人物との出会いがあったのか。
とにかく一件落着と私は安堵したのだった。
しかし最後の電話からちょうど半年後、再び彼女からの着信が来る事になる。
彼女はその後、新しい仕事を得た。
アパレル系のお店の店員の仕事だという。
しかしそのお店の客に、監視をしている対象者と思われる人が訪れたという。
不安に思い、彼女はその店を辞めてしまった。
私は再び、彼女と会う事になった。

その職場でこんな人やこんな人が来た。
その人にこんな事を言われ、また別の人にもこんな事を言われた。
そんな話を私は長々と聞かされた。

「招き猫さんが調べてくれたんだもん、盗聴器は無いはずなのにね、なんであの人たちは私のあんな事を知っているのだろう？」

「う～ん・・・それはきっと、その人たちはあなたの事を心配してくれているのかも。実質的な被害が出ていない訳だから、気にせずに別の仕事を早く見付けなきゃね。」

「そっかぁ、きっとあの人たちは私のファンなのかも。でも、結構疲れちゃうのよね、あははは。」

彼女は被害妄想を持ちながらも、それらを自分の都合のいいように捉える事が出来る不思議な人だった。
私は過去に、被害妄想を持つ依頼者に何度も出くわした事がある。
しかし、こんな悲壮感を持たない人は初めてだった。

週に一度くらいであろうか、彼女から電話が鳴り飲食をする日々が続いた。
彼女の話は相変わらずだった。
しかしそんな日々が3カ月ほど続いた後、また彼女からの電話がパッタリと来なくなるのだった。