昼食のかたずけを終えたころ
お客様がやって来た

若い女性だ
思わず胸がときめく

でも無表情でうつむき加減
いまいち生気が感じられない

年の頃は３０代前半の能面の美女
身長は１６５ｃｍ、足のサイズは２４，５ｃｍか？

何が入っているのだろう
大きなバックを二つも持って来ている


「いらっしゃいませ
ようこそペンション森の家へ」

挨拶をしたビーナスが
ギリシャの彫刻のように見える

ギョッ！
その横に立っているのはモグラではないか

白いプレスされたシャツに
折り目もバッチリの黒いパンツ

髪は櫛が一応通っている
思わず吹きだした

ペットショップの高そうなモグラみたいだ
でもペットショップにモグラっているのかな？

モグラが彼女の荷物を持ち
部屋へと案内をしながら奥へと消えて行った

すかさず僕はヴィーナスに近寄った

「お客さん元気無さそうですね
旅疲れかな？」

ビーナスは真剣な顔をして
「サンちゃんにも応援してもらわないとね」

「応援って？なんの・・・」
「彼女を復活させるのよ」

「はぁ？彼女はイエス・キリストですかぁ～」
「ちょっとまじめにきいてね」

つまりはこういう事であった
彼女は若手の有望な画家であること

ある悲しい出来事が起こり
その結果命を絶とうとした

発見が早く一命は取り留めたが
声を失ってしまった・・・とのことだ

「で・・・」
「で・・・じゃないでしょ」

「ここで静養するのよ」
「西洋ってここは日本」

その瞬間ヴーナスの鉄拳が飛んできた
頭が真っ白になり後ろへすっ飛んだ

「あやつから何も聞いてないの！」
「な、何をですか・・・」

顎の痛さよりヴィーナスの怒った顔が
悪魔的に美しいと思った

「ゴメン、ちょっと痛かったかな
でも回し蹴りでなくてよかったわ」

「明日の朝まで床で寝ていることになったかもね」
って・・・ヴーナスって美しい女子格闘家なの？

「いいこと！彼女の心の傷を癒す手伝いをするのよ」
「人間の心は治癒力を持っているの」

「ナイフで切った指の傷が自然に治るようにね」
「彼女の治す力を最大限に活用出来る様にするのよ」

「心の傷は医者や薬では治らない」
「自分の力で治して初めて完治するの」

「わかった！」とヴィーナスが納得したように告げた
「それで薬草とか、ハーブとかを集めて来るんですね」

「そう、だから毎日、心を込めて取ってくるのよ」
「私も全霊を込めてそれを料理するから」

「じゃあ、ここって病院なの？」
「いいえ、ここはペンション森の家よ」


これからお客様はどうなっていくのでしょう？
で・・・ビーナスとモグラっていったい何者なの？