さて、物語の第２ラウンドの始まり・・・


森の家に宿泊客がやって来たのは
連絡が入った三日後であった

その日も暑い日だった
容赦なく真夏の太陽が照りつけていた

サンちゃんは
ヴィーナスに言われた通りの薬草を探した

汗びっしょりになりながら
山の中を飛び回った

そして籠にいっぱいの薬草を入れて
昼前に戻って来た

昼食後は庭での薬草園を作る仕事が待っていた
「たくさん食べて体力を付けなきゃ」

「ファイト一発！
　森の家スペシャル・・・」

と食器棚の一番大きな皿と丼を取り出す
「食べた分の２乗分に比例して働くのよ」とビーナス

「サンちゃんは別に水だけでOKだよな」とモグラ
「エ～ッ、ここはブラックペンションですか」

「今頃気付いたの」とみんなで大笑い
１２時過ぎ夏子さんを交えて楽しい昼食が始まった

その時来客用のチャイムが鳴った
予定より２時間早くの到着だ

あわててフロントへ急ぐヴィーナス
その仕草は美しく躍動する雌ヒョウの様だ

ちょっくらフロントの方を覗くサンちゃん
アッ・・・子供さんも一緒だ

それは３０過ぎの男性と小学校は２~３年生に見える
男の子との２人連れだった


男性の名前は武志
子供の名前は陽太郎といった

武志はある地方の村で床屋を営んでいる
陽太郎は彼の長男で小学校２年生だ

武志は３か月前に全国理容競技大会に出た
結果は全国第二位

結構な技術とセンスを持ち合わせていた
彼の家は代々床屋をやっていた

彼の自慢はその腕前ではなく
家に伝わるハサミだった

「これは魔法のハサミ」
「先祖様の不思議なハサミ」これが口癖だった

でもそんな彼に悲劇が襲った
大会の終了後の事だ

慣れない都会でちょっとした隙に
駅で手荷物を盗まれてしまったのだ

「俺のハサミが
大切な魔法のハサミが・・・」



「こんなハサミじゃ仕事は出来ない」
実家に帰った武志は叫んだ

妻が予備のハサミを渡すと
それを床にたたきつけた

それ以後彼は仕事を止めてしまった
いや出来なくなってしまったのだ

大切なハサミを失ったショックと
そのハサミで初めて自分の技量が出せると信じていたからだ

もうお客さんに満足してもらえる
そんな仕事は出来ない

仕事はしたいが仕事が出来ない
彼の心は方向性を失ってしまったのだ

父の事が大好きな陽太郎は
「パパと一緒に行く、パパを助けるんだ」

そう言って夏休みの事も有って武志に付いてきた
お店の方は妻が一人で何とか切り盛りしていた



昼食をお持ちしますわ
ビーナスが武志に伝えた

彼は無言で下を向いたままだった
「お、お願いします」陽太郎が代わりに答えた

料理を運んだ数分後
「ガチャ～ン、ガチャガチャ」

食器の割れる音がした
「やめて、パパ」

慌てて部屋へ駆け込む
モグラとヴィーナス・・・夏子さんそしてサンちゃん

皿が割れ昼食が辺りに飛び散っていた
陽太郎が泣いていた

武志は相変わらず下を向いていた
「こんなの嫌だ、こんなの嫌だ、パパ」

そこには手際よく後片付けをするヴィーナス
陽太郎に手を差し伸べる夏子さん

腕組みをしながら様子を見ているモグラ
そしてただおろおろしているサンちゃんがいた


さて次の展開は・・・