セカンド

モグラ・・・その13

小説/詩

数日が経った

入口に飾ってある絵の中の白い箱はまだ存在している
冷たく澄みきった水の中で無言で佇んでいる

武志の状態もそのまま
食事はするもののただベッドに横になっている状況が続いていた

「パパは大丈夫なの、治るの」
陽太郎が涙目でモグラに訴えた

「時間がかかりそうだけどきっと治るから心配はしないで」
そういってモグラは微笑んだ

ご先祖様伝来のシザー
車が一台買えるほどの高価なものだそうだ

このシザーがあってこそ自分は
お客様に満足していただける仕事ができる

それをちょっとした自分の不注意で盗まれてしまった
そのショックは計り知れないものがあった

次の競技会では絶対一番になるからね
そう妻と陽太郎に電話をしていた

スマホを切って足元のバッグを持とうとして
無くなっているのに気づいた

幽霊のようになって帰宅して以来
もうハサミを持つことは無くなってしまった

森の家に着いてからも同様
ただボケーっと起きて寝ているだけ

「僕も薬草採りに連れで行って」
陽太郎がサンちゃんに頼んだ

「僕もおパパの薬を作るんだ、お願い!」
サンちゃんも困ってしまい、ビーナスに相談した

「今日のメニューの薬草は危険な場所に生えてないし
距離も近いし・・・OKよ」

「よかったね、陽太郎」
「うん、出発進行だ!」

「でも陽太郎君お兄さんのいう事を絶対に守るのよ、
頼んだわよサンちゃん」

道すがら陽太郎は楽しそう
「これを飲めばパパも治るんだよね!」

そう言ってパパが競技会で2位に入った事
街で評判の腕のいい床屋であること

陽太郎だけでなく街の人にも優しい事
ママと仲がとっても良い事などを話してくれた

そして森の家に帰ると
ビーナスと一緒にティーを作った

「きっと良くなるよ、陽太郎スペシャルだからね」
サンちゃんとヴィーナスは微笑んだ

そしてサンちゃんと一緒に
武志の所へと運んだ

「いい香り、パパこれを飲んで」
陽太郎がサイドテーブルにティーを置いた

「早く良くなります様に」
陽太郎はカップを大切そうに持った

そしてパパ武志の方へ持って行った
その時だ

「おまえに何がわかるんだ」
武志は手を払った

それはカップに当たりティーが飛び散った
「あっ」

一瞬時が止まった

「そんな事って・・・」
サンちゃんも瞬間固まった

ティーは飛び散る真珠の粒のように見えた
瞬間砕けて床に飛び散った

「なんで!」 「パパ」 「なんで!」
そう叫ぶと陽太郎は外へ飛び出した

我に返ったサンちゃんが後を追う
「どうしたんですか」

ドアを出たところでサンちゃんは
誰かとぶつかった

抱き合って激しく床へと転んだ
モ、モグラ・・・

これがヴィーナスか夏子さんだったら
なんて思いつつサンちゃんは一瞬気を失った

座り込んでいるモグラ
大の字になっているサンちゃん

慌ててやって来たヴィーナスが
「大丈夫」と言ってサンちゃんの頬を叩く

目を開けたサンちゃんにヴィーナスの顔が
20㎝上空にに映る

「なに笑っているのサンちゃん
何があったの、陽太郎君は・・・」

「陽太郎君は」でサンちゃんの思考回路が戻った
「陽太郎が泣いて飛び出して行った」

部屋の中を見ると
武志の足元には無残に割れたティーカップがあった

当たりにはティーが飛び散り
張りつめた空気の中に柑橘系のいい香りが漂っていた

その時窓から差し込む日に
飛び散ったティーが虹色に光った

大丈夫効いているわ
モグラと顔を見かわすヴィーナス

さぁ、陽太郎君を探しましょう
後から駆け付けた夏子さんも一緒になり外へと飛び出した


それから数時間、森の家の人たちは
陽太郎を必死で探した

何処にもいない
もうじき日が暮れる

山の端に心なしか心配そうに
太陽が近づいている

陽太郎~
武志も必死で近くの森をいっしょに探した

「陽太郎ゴメン
パパが悪かった」

「でも仕事はあのシザーが無くては出来ないんだ
ゴメン陽太郎」

涙でぼやける視界
もうじき日は暮れてしまう


森の家に灯がともった
山の夜は急激に暗くなる

恐ろしげに辺り一面を
黒い幕が覆った

月の灯りもなく
星の瞬きも頼りなく地に届くことなく消えて行った



それでもハサミの持てないパパの武志
治ることを祈りつつ作ったティーを拒否された陽太郎

闇に飲み込まれてしまった森の家

どうなるのでしょうか




















  • セカンド

    セカンド

    2015/09/10 00:57:20

    奈柚様

    自分を見失うほど
    精神的にも疲れきっているパパ

    森の家の人たちは暖かい
    そう思いませんか

    こんな友達がリアで欲しいです

  • 奈柚

    奈柚

    2015/09/09 23:05:04

    うん大丈夫だと思う
    こういうのってスイッチひとつだよね?
    つかお子さんの淹れたお茶をはらうなんて!

  • セカンド

    セカンド

    2015/08/31 09:04:20

    いしころ様

    ジャ~ン
    どうしましょうか

    森の夜は本当に暗い
    陽太郎君は何処へ行ってしまったのでしょうか?

    ん~
    お待ちください^^

  • いしころ

    いしころ

    2015/08/31 03:39:30

    映画館で 少し長い予告編を見てるような臨場感がありました
    ショックのあまりお父さんは自分しか見えなくなっていた
    口にされなかったティーだったけれど 窓から差し込む日に 虹色に輝いて 
    その効果がまだあると効いていると・・私も信じたいです その力を奇跡を・・
    陽太郎君の気持ちに応え再びその手にハサミを持つ勇気を 
    陽太郎君の運命やいかに・・そのきっかけとなるのは・・なんだか 興奮してきました
    シザーハンズみたいに 手が変身~~ん しちゃうと面白いなんて思ったり~
    技術を磨いて優勝することに意義があるのではなく ハサミに頼っている限り
    本当によい仕事はできないのだと  
    セカンドさん こんなお父さんを なんとかして~~夜になっちゃったよ^^;
    白い棺桶が 早く消えますように祈りつつ おやすみなさぁ~い(^^)/ 

  • セカンド

    セカンド

    2015/08/30 21:43:34

    夢子様

    そうですね
    筆を選んでしまっているパパ

    というよりホンロウされています

    どうなちゃうんですかね?

  • 夢子

    夢子

    2015/08/30 15:11:08

    「弘法筆を選ばず」って聞いたことがあったような気がします。
    上手い人は言い訳しないし、道具は良い方がいいけれど、
    気持ちを切り替えないと・・・、
    本当に大事なものを失ってしまいますね。