すずき はなこ

「されど、死にゆくのはいつも他人」

人生

昨日、昼過ぎになって、ひょっこりお客様が来られました。
小型ボートで海に繰り出すにしては、時合を逸しておられるし、
小雨が降る中、ボートの修理もできないのに、
どうしたのかなあと思っていましたら・・・
「いや、なに、ちょっとね。」と浮かない顔でした。


去年の健康診断で、大腸にポリープがあるとは言われていたが、
仕事も忙しいし、そのまま放っていたら、癌化してしまったのだと。
「手術入院が決まったので、ちょっと来れなくなるから・・・」と、
わざわざ時間を作って、会いに来てくださいました。

まだまだ見た目は、お元気そのものですが、
ポリプを見つけて1年放置していたことが、事を大きくしたようで、
ご本人は、心因的にはかなり参っておられるようでした。

「わたしたちも、おっつけ参りますから」というと、
「え、それ死ぬって言うこと?」と狼狽されました。
(何じゃ、その挨拶に来たのではないのか。)

いままで、死なない人間を見たことがないので。
わたしの知っている限り、いつかは、みんな、あちら側の世界に行くようです。
ちょっと早いか、うまく難を逃れて、若干遅いかのどちらかです。

わたしも鈴ちゃんと結婚する少し前に、
腎臓が腐りはて、移植手術があるからと言われたことがあり、
人様の大事なものを貰ってまで長生きしなくていいので、
観念してまな板(手術台)の上に乗る用意をしていたことがあります。
成功率の低い手術だったので、「後は頼む」と鈴ちゃんと籍を入れました。
手術予定の2日前に検査入院したら、なんのことはない、
腎臓は奇跡が起きたかのように、「新品」に変わっていて、
医者が、「頼むから開けて見せてくれ」というのを、
「アホなことを言うな」と、さっさと帰ってきました。

若輩者ですが、あのときは「死を覚悟」出来ていたと思います。
なんの悟りも開いていませんが、
やりたいことは、みんなし尽した!という気持ちです。
やり残したというものはありませんでしたし、
これを食べるまでは、死ねない!というものもありませんでした。

このお客様は、「まだまだやりたいことがいっぱいあった」と言っておられます。
もう少しで、2度目の定年を迎えるところだったし、
次は、自分の好きな商売でもしようと思っていた。
好きな釣りも、思い存分やりたかったし、
ちょっと金をかけた旅行にも、奥さんと行こうと思っていた・・・。

「息子さんと、仲直りをしておかないと」
「それは、です」
(この方、良い息子さんをお持ちなのに頑固おやじでケンカばかり)
「なんという迷惑千万な親!」
「カカ(奥さん)には、息子には言うなと言うてある」

なんとまあ。

うちへ挨拶に来る前に、
息子や奥さんと、過ごさなければならない時間があるでしょうに。
「それじゃあ、まだまだ死ねませんなあ」というと、
「そうか!?まだ死ねへんか!♪」と喜んでお帰りになりました。

うちに引導を取りに来たのでもあるまいに、
なんという立ち直りの速さでしょう。
まあ、腹腔鏡下手術ということですから、
Stage0か1、大腸がんの初期だと思いますので、
無事、お帰りにはなると思いますけど、
これを機会に、息子さんと仲直りはして置いたほうが、
「オトナ」だと思うんですけどねえ~。

それとも、死ななきゃ治らない別の病も併発しておられるのかも・・・。

  • 泪珠

    泪珠

    2015/09/08 00:07:34

    腹腔鏡ってことは、転移なしとみられている、軽いステージだと思います~

  • まぎまぎちゃん

    まぎまぎちゃん

    2015/09/07 20:01:18

    思うに、「男」は弱い。そのくせ意固地。やっかいな。
    一緒に嘆き、不安な心に寄り添って励まして欲しいところが、「おっつけ参ります」は愉快でしたね。
    ククク。さすがはなちゃん。

    本当に、身内が揉めるとこじれにこじれますねぇ。お互いに際限なくわがままになってしまうからかしら・・・。我が母の姉たちも、音信不通で生きているのやら死んでしまったのやら。残り少ない時間、姉妹仲良く、とはいかなかった寂しい例だなぁと、見つめています。死んでしまっては手遅れなのに。

  • ちゃいろや

    ちゃいろや

    2015/09/07 19:54:20

    いいなあ 喧嘩できる息子さんで・・・。

    うちのは、娘1号も2号も総領も そしてニョーボも
    喧嘩どころか ただ齧られっぱなしで
    先行き心配で心配で・・・

  • Mt.かめ

    Mt.かめ

    2015/09/07 16:15:31

    なかなか身内とこじれると
    関係を修復するチャンスってないもの。
    踏ん切りをつけるために、はなこさんに背中を
    押してもらいたかったのかもねー。実家の父君も
    弟君たち(私の叔父さんにあたる)と絶好状態でさー。
    もーそろそろ仲直りしてもらいたいんだけど(笑)

  • 大喜

    大喜

    2015/09/07 15:38:10

    にしても、わざわざはなこさんに報告に来るとは
    何かをはなこさんに感じたんですかねえ・・・

    >「わたしたちも、おっつけ参りますから」というと、
    >「え、それ死ぬって言うこと?」と狼狽されました。

    という箇所は少し笑いました
    話ができるならまだ大丈夫でしょう

    メメントモリ