小人閑居して不善を成してやろうじゃないか

Joe

このつまらない俺に暇を与えてごらんなさいw

ありふれた日々 #7

自作小説

昼食時間になり、桃子は遠くに見える文一郎が気になる。というよりも通信販売からの回答が気になって仕方がない。仕方がないが食事の時間でもなにやらPCに向かって真剣に作業している文一郎に声をかけるのは流石に気が引けた。まぁ元々世話を焼きたがる人らしいのでそこは任せておこう。狼狽えているととらえられるのも癪に障るし食事が終わるまでは一度忘れよう。

梅雨の湿気のようにまとわりつく嫌な感覚を振り払うように桃子は食堂にむかった。

 

瀟洒な雰囲気の食堂は気分を明るくしてくれる。桃子は定位置のパステルピンクの椅子を確保して家から持ってきた弁当を開いた。いつも同居する母が朝早くから作ってくれるそれは桃子の神経を落ち着かせてくれる。今日は昨日の夕食の肉じゃががコロッケに姿を変えて主役であることを主張しているが、その脇になぜだか紅ショウガが大量に盛ってある。母の弁当は一品一品とても美味しいがそのコンビネーションはどこか独特である時はふりかけの代わりに粉末状のお茶漬けの素がふりかけられていたこともあった。それ以来桃子は親しい友人とも弁当を囲むことを避けているような気がする。今日も一人に向かった席を占領して、遠くの壁に掛けてあるテレビではお昼の情報番組が最新のファッションをしきりに押し出していて高校生か大学生くらいの可愛い女の子が着せ替え人形のようにあれこれと違ったテイストのファッションに身を包んで笑顔を振りまいている。それを男性社員たちがあれやこれやと批評に興じている。男などそんなものだ、顔や胸を基準に女を判断して足らない頭で評価する。馬鹿なふりをしたしたたかな女に騙されていることもわからず休みのたびに運転手代わりとしてどこかに連れていかされる。何歳で結婚し何歳で子供を産み何回産休を取り何歳からパートタイマーで適度に過ごし何歳で不要になった夫を捨てるか・・・そんな逆算された打算に基づいているとも知らずまったくめでたい話だ・・・男にも打算はあるのだろうかいや、あの短絡的な生き物を観察する限りそれはない。私が男にすり寄っていかないのはそんな哀れな生き物への優しさかもしれない。

そんなことを考えながら食事していると手元にはもう大量な紅ショウガだけになっていた。この紅ショウガは桃子の大好物、兵庫の高級佃煮屋さんのものだ。以前親子で旅行した時にハマって以来欠かすことなくお取り寄せしている。コロッケの後にさっぱりとした生姜の辛味は意外とマッチしていた。そろそろ休憩が終わる、桃子は務めて気分を変えるために大好物を頬張って気合を入れなおした。回答はもうきているだろうか。