生活の安心とは。
　なんでも手元にあれば安心する。社会生活に必要な標準装備をもっていると、
事が起こった時に慌てないで済む。しかし、何もなかったら、どうしたらいいのか。
親の遺産を分けるといっても、有るのは借金だけというケースもある。
　だから、安心の継承というのは、順調な生活が物的にあればの話である。現実に
負の遺産を受け継いでいる人だっている。

　物だけではない、受け継ぎたくない意識、伝統だってある。夫の考え方に
ついていけないと長年思っていた妻が、急に離婚する場合だってある。もっと、
深刻な問題だってある。親が入院していたり、寝たきりの認知状態にある親の
面倒を誰がみるのか。兄妹といえども、平静でいられない。

　助け合えばいい。そうだろうが、多額の借金を抱えて、兄弟といえども支え
きれない例もある。それに兄妹といえども、考え方の違いが厳然とある。
　何となく親族、兄弟姉妹の和を保ちながら問題を解決したい。みんな平和主義
者だから、波風が立たないようにと配慮しょうとするが、どうしても、しわ寄せが
身近な人にいってしまう。離れていると、介護なんかはなかなか手伝えない。だが、
一方で相続の権利はしっかり受け取ることになる。どこかに歪みが出てくる。

　だから、思いやり、愛情をもって助け合おう、と言っても、遺産の相続でもめたり
するわけである。物だけではない。考え方や意識の引き継ぎもある。
　親に似ていると言われたことはないだろうか。人は何かを知らぬ間に引き継いでいる。
目に見えない伝統を引きずっている。
　「栴檀（せんだん）は双葉より芳（かんば）し」という。
受け継ぐのは俊才だけではない。鈍才だって受け継ぐのだ。好き嫌いに関係なく。
自分の意識は自分で形成してきたから、自分独自の専売特許のように思っていたが、
どうも、そうではないらしいと最近、気づくようになった。これも歳か。