小人閑居して不善を成してやろうじゃないか

Joe

このつまらない俺に暇を与えてごらんなさいw

ありふれた日々 #8

自作小説

まだ日中は汗ばむ陽気だが、高田の勤務する通信販売部の入っているビルは営業のある本社から7駅も先にあり、フロアごとに別の会社が入っている。当然本社の様な綺麗な食堂などあるはずもなく昼食は近所の中華屋かうどん屋にきまっている。今日もお決まりの麻婆豆腐ランチをたいらげて陽気のせい以外の汗も額に浮かべながら自席に戻った。ここ最近はクールビズという言い訳によってエアコンの設定値も28℃に抑えられていて席についても全く涼しくはない。「書類が飛ぶから」という苦しい言い訳で扇風機も総務から禁止されているため社員はもっぱら団扇でぬるい空気を自分にぶつけながら仕事をしている。半ばうんざりとしながら自分のデスクにある行きつけの飲み屋の広告のはいった団扇に手をのばすと背後から突然声をかけられた「おい!高田!」 振り向かなくてもわかっている。この横柄な呼びかけと野太い声・・・通信販売部の藤原部長だ。見かけはまるで堅気には見えず、髪はオールバックになでつけて黒いワイシャツは2番目のボタンまで空いている。仕事はやり手らしく通信販売事業を立ち上げ年間80億を売り上げるところまでこぎつけた実績は社内での傍若無人な振る舞の免罪符となっている。「通信販売の在庫を野放図に増やし続けている奴に活を入れてやったんだろうなぁ!」なぜ自分が怒鳴られているかもわからない「は、はい。今朝メールでご懸念事項を伝えてました・・」最後の した を聞き終わるよりも早く「だからお前は甘いんだよ!そんなもん電話で怒鳴りつけとけばいいんだ。俺が許してやる!」もう無茶だ、相手は自分よりも先輩の大田桃子だ自分が怒鳴るなどありえないし怒鳴るなんて自分のキャラにはない。「しかしですね・・昨年は在庫不足からお客様にお届けできない事が頻発しましたし何か考えがあるんだと思いま・・」「俺が在庫が多いって言ったら多いんだよ。あのお嬢ちゃんと俺じゃぁ経験が違うんだ。いざ足らなくなったら生産の連中に日曜日も出勤して作らせりゃいいんだから今すぐ余計な生産は止めさせろ!」 もう何も聞く耳は持っていまいいつも自分がその始末をつけているのをこの人は知っているんだろうか・・。罵倒されながら高田の眼は助けを求めるようにさまよいOUTLOOKに新着を見つけた。「お話の途中ですが部長。営業の横山課長からその件についてどのアイテムが多いのか教えて欲しいってメールが来てます。」

営業の横山・・・この人もよくわからない。情報部門の課長だったのは知っているが営業に異動になったと思ったらなぜか需給をつかさどるロジスティクス部のフォローをしているという。しかも顔が広いらしく一管理職にも関わらず生産から開発、営業、ロジスティクスまで知らないものは居ないときく。仕事の上で話をすることはあるがいつも笑顔で、自分を背後から罵倒している部長とはまるで逆だ。しかし、その名前を告げたとたんに部長のテンションが下がるのがわかった。「そうか・・・そのメールは俺に転送しておけ。俺が直接返信する」 そう告げたかと思うと椅子にどっかと座り何かを考え始めた。年齢も10歳程下で役職も下の相手をこの喧嘩番長が恐れているわけでもないだろうに。高田は過ぎ去った嵐が舞い戻らないうちにメールを転送してほっとした。