小人閑居して不善を成してやろうじゃないか

Joe

このつまらない俺に暇を与えてごらんなさいw

ありふれた日々#12

自作小説

「彼には私が営業本部の時に利益改善のプロジェクトで世話になったよ。彼は当時係長だったが、社内のどの業務にも精通していてさらにどの部署にも人脈を持っている。プロジェクト運営にも慣れていて経営陣とも堂々とやり取りする姿は中途半端な部長職など子供同然に見えてしまったものだよ。20も年の違う若者に何度も救われてばかりだった。」

プロジェクト・・・藤原は腹の底に忘れかけていた鉛のような重さを感じた。

「君は・・・」武本は続けた。

「大事なプロジェクトを社長から預かっているんだろう?困ったときは彼を訪ねてみるといい。」

藤原はこの元上司がなぜ社内プロジェクトを知っているのかと驚いた。武本はそれを見透かすかのように言った。「君のところの社長は我々に通販を立ち上げることの仁義をとおしてきたよ。我々とは競合しない商売でもあるし、御社のブランド力強化は我々にもメリットを生む。そしてそのリーダーが君であれば私としてもただただ成功を祈るのみだ。頑張ってくれよ」

藤原は正直にならざるを得なかった。

「それが・・・ですね・・・ついさっきプロジェクトを首になりました・・・」

しばしの沈黙。武本が一瞬真顔になったのを藤原は見逃さなかった。

だがその直後武本は藤原の肩を強く叩き

「何をしでかしたかは知らないが会社に帰ったら土下座してでも社長にもう一度チャンスをもらえ!もし困ったことがあれば一度横山に相談してみるといい。彼は絶対に協力してくれるはずだ。」

その後もいろいろと武本と横山の逸話を聞かされた。かつての上司の横山に対する信頼はかなり厚くむしろ心酔と言ってもよいレベルに感じられる。社内で聞く噂とは随分とかけ離れている。しかし自分よりも10程年下の人間に相談か・・・いや、ここはプライドを捨てるべきか・・でも営業本部の連中はプロジェクトのとん挫をむしろ歓迎しているような雰囲気だ。藤原は自分の疑問を素直に武本にぶつけてみた。

「横山君に相談するとしても営業本部は本部長も含め今回の通信販売のプロジェクトを歓迎していないんですよ。このまま継続をしてもうまくいくかどうか・・・」

武本の答えは明確だった。

「君は“やらない“という選択肢があると思っているのか?プロジェクトを任されるというのは”いかに実現するか“を任されているんだ。できない言い訳を考える労力は出来ることを考えるために使えよ」

 

藤原自身この当たり前な理屈を忘れていた、そうなのだ。自分に課せられているのは成功することであって、たとえ自分の意に反しようと関係ないのだ。だが、プロジェクトを首になった自分がもう一度チャンスをもらえるだろうか?それに横山という男が営業本部の静かな反発を打開する方法を知っているのだろうか?自分に自信のある勝負しかしてこなかった自分にとって軽々しくチャンスが欲しいなどということは全く経験しない掛けだ。一度横山という男に話を聞いてみて決めよう。