小人閑居して不善を成してやろうじゃないか

Joe

このつまらない俺に暇を与えてごらんなさいw

ありふれた日々 #13

自作小説

得意先から帰社したのはもう20:00を回っていた。夜の接待は武本に持ち掛ける雰囲気ではなかったし、そんな気分でも無かった。

 デスクに戻ると部下たちや他の部署の人間もほとんど帰宅しており、同じフロアの丁度対角では活発に話し合い、ときおり立ち上がってデスクの横に据えた縦型のホワイトボードに何やら書き込んでいる男女4,5人の集団がある。何をやっているのか知らないが、確かあの集団が業務推進部だったはずだ。そもそも何をする部署かも知らないが、なんとなくシステム関連や原価計算をしているらしい・・・とりあえず横山という男がいるかもしれない。藤原は今まで踏み込んだことのないフロアの一角に踏み込んだ。

 

「・・じゃぁその問題自体の根源をミッシーで分割してみようか」

「フレームは初めから7S分析を前提にやったほうが効果的じゃないですかね?」

 

その集団は藤原が近づいても全く気にしない様子で何やらわからない言葉を飛び交わせている。なんだミッシー?ネッシーみたいなもんか?7S?とかくこういう管理系の人間は横文字やアルファベットを使いたがっていけ好かない。軽い不快感が顔に出ない様に気を付けながら一番手前にいた男性社員に声を掛けた。

 

「ちょっとすまん。横山君と話がしたいんだが・・・」

 

集団が一斉に振り返り藤原に視線を集める。ホワイトボードの横にいた30代らしい男がおもむろに立ち上がって軽く会釈をし、

「お待ちしていました。どうぞあちらへ」 と4人ほど入れるガラスで仕切られたミーティングスペースを指した。まるで自分が訪ねるのを知っていたかのような口ぶりだったが尋ねる間もなくスタスタと先に立ってミーティングスペースに入って行ってしまった。横山は一見物静かで居住まいのよい好青年に見えるが、目の奥に何か心の奥を見通すような洞察力を感じた。いかん、武本さんの話にやられているな。藤原は自分の心から思い込みを追い出してミーティングスペースの横山を追いかけた。