ありふれた日々#14
「・・・というわけなんだ」
ガラス張りの空間の中で藤原は横山にプロジェクトの経緯と今まで起きたこと、そして自分が経営会議でプロジェクトからの解任を言い渡されたこともすべて洗いざらい吐き出した。
本当はそこまで吐露してしまう自分に少なからず驚いていた。横山は藤原の話を静かに頷いたり聞き返したりしながら静かに聞いているが表情は藤原の心情に呼応するように苛立ったときは困り顔に、憂いを感じたときは悲しげな顔に目まぐるしく変わって、どんどん深い話を引き出されてこのまま私生活の問題まで話してしまいそうだった。
ひとしきり話が終わると横山は腕組みの片方を顎にあててつぶやいた。
「なるほど。大体わかりました。大変でしたね。」
その顔にはうっすらと笑みが漂っている。決して馬鹿にしているようにはない爽やかな面持ちだ。
ガラス越しには彼の部下が相変わらず活発に何やら議論しているが時折心配気味な視線を投げてくるのが見て取れる。確かに営業課長がいきなり乗り込んで来たら何かと思うだろう。彼らを率いる自分よりも10歳程下のこの男は自分にいったいどんな知恵を授けてくれるのだろうか?ここは素直になるしかない。
「俺はどうしてもプロジェクトに復帰して成功させたい。どうすればいいのか全く見当つかないんだ」
横山は軽くうなずいてから立ち上がって言った。
「藤原課長。今日は私も別の案件がありますから明日の夕方もう一度お話しできますか?」
流石に自動販売機のようにスイッチを押せばすぐに欲しいものが手に入るわけではないか・・・
わかっていたこととはいえ少し落胆した。あの武本が心酔する程の男がどんなものかと思ったが所詮は自分と同じ課長職の普通の男のように感じた。
「わかった。また明日よろしくたのむよ」
藤原は落胆の色を見せない様にミーティングスペースから出て軽く手をあげで自分のデスクへと戻った。
横山はそんな藤原を愛想のいい笑顔で見送ったが、すぐにどこかに電話しはじめた。
振り返った藤原に笑顔で会釈することは忘れずに・・・