ある夜。。桜咲く林に。。家路を急ぐ一人の若者が通りかかりました。。　

桜は折しも満開で。。

その中でも。。月の光に際立って咲き誇る一本の桜を眺めて。。・。✿

「あぁ…なんと美しく見事な桜だ…」

若者は。。その桜の美しさにうっとりと心奪われ。。呟きました。。

「桜よ…お前は一体誰に見てもらうためにそのように咲いているのだ…」

すると。。その呟きに応ずるかのように。。

桜の花が。。ひらりひらり風に舞い上がり。。何処からともなく。。

愛らしい微笑を浮かべた美しい女が。。若者の前に現れたのです。。✿。・

そして。。若者に。。優しく囁きかけました。。

「桜は…貴方様のために花を咲かせているので御座います。

　貴方様のためなら…どんな桜も喜んで花を咲かせましょう…」・。✿

女は。。えも言えぬ良い香りを漂わせながら。。若者に近づいて来ました。。　

（桜のように…なんと美しい女であろうか…）

若者は。。一瞬にして心を奪われ。。女に招かれるがまま。。

満開の桜の下で。。夢の様なひと時を過しました。。・。✿　

やがて日が昇り。。若者が帰ろうとすると。。

「また…会い来て下さいね」女は愛らしく微笑んだ。。

「あぁ…約束しよう」。。若者は優しく頷いた。。

桜の林を出た若者は。。ふらついた足どりで。。家路へと向かいました。。✿。・

「おい、どうした？…血の気のない顔をして…具合でも悪いのか？」

通りがかった隣人が声をかけても。。若者は何も答えませんでした。。

翌日。。若者ことが気にかかり。。隣人が若者の屋敷へ様子を見に行くと。。　

若者は。。桜舞い散る木の下で。。息をひきとっていました。。・。✿

若者の顔には。。幸せそうな微笑みが・。✿浮かんでいました。。✿。・

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい。。✿。・『桜の精の昔話より…一部創作』

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