『街角デッサン』

　標記のタイトルで随筆を書き、先日、和歌山県白浜町の随筆同人誌『浜木綿』へ原稿を送付した。この同人誌には、「大阪文学学校」の関係で知り合ったＨ医師の紹介で寄稿するようになった。Ｈ氏を知ったのは大阪北区神山町にあった小さな喫茶店であった。私は近くの賃貸ビルの３階にあった労働問題を専門に扱う週刊新聞社の記者をしていた。当時、劣悪な職場環境にあった職業病について取材をしていた。有機溶剤や粉じんによる「じん肺」を取材していた。播磨地区にあったカーボン工場で「じん肺」被害患者から話を聞いたことを憶えている。

　昼休みの時、自宅を改装した小さな喫茶店に行くと、客は誰もいなくて、ママさんは長いカウンターで原稿を書いていた。「小説ですか。」と聞くと、「そうなのよ。なかなか書けないの。」と言って、コーヒーを淹れてくれた。このママさんは大阪南の宗右衛門町でクラブを経営していたが、父親が亡くなってからクラブを店じまいし、自宅を改装して小さな喫茶店にしていた。客は来ても来なくてもいいから、暇に任せて「大阪文学学校」へ通って、小説を書こうと決心したというのであった。

　「あなたも入学されたら。」と勧められるまま私も「大阪文学学校」の夜間の授業を受けに行った。この時の同級生でＳ君とは今も親交が続き、三十数年続いている読書会のメンバーである。また、同級の女性が、ワインをテーマに推理小説の部門で賞を貰った。この作品はテレビドラマにもなった。Ｈ氏は医院を廃業して、白浜へ転居され、文筆活動に専念されている。このＨ氏に誘われ、『浜木綿』に投稿するようになったのである。