小人閑居して不善を成してやろうじゃないか

Joe

このつまらない俺に暇を与えてごらんなさいw

ありふれた日々 #18

自作小説

#18

7年前藤原のそして横山の進めたプロジェクトはピンチに陥った。営業タスクフォースが綿密に行った市場調査から導き出した新商品の設計が進まないのだ。プロジェクトの進捗会議では開発タスクフォースが報告する遅延は週を追うごとにひどくなっていく一方だった。ついには開発の進捗が停止したために他のタスクまで進捗に支障がではじめた。ただ不可解なのは開発タスクメンバーが毎週の進捗報告直前に遅延を報告してくることだった。

「開発タスクリーダー!毎回毎回遅延報告するなんていい加減にしろよ!」

たまりかねた藤原はプロジェクトルームの机を壁を叩きながら恐縮する開発タスクリーダーに言い放った。

あまりの剣幕に椅子から飛びあがた後は身を小さくしてうつむいている。プロジェクト進捗会議の面々は皆同様にうつむいて声を発するものはおろか咳払いするものすらいない。時計の秒針のかすかな音だけが永遠とも思える時間が止まってはいないことを伝えている。横山はタスクリーダーの様子を伺っていた。顔に微かな憤りを感じる。確信犯ならどこか冷めた表情をするものだが・・・

「開発タスクリーダーは遅延を2週間で挽回する案を考えて3日以内に提出してくれ。今日は解散だ」

緊張感がいまだ残る会議室をプロジェクトメンバーの面々がぞろぞろと退出していく、まるで我先にと非難している様だ。スライドを映すために暗くしてある室内の照明がつけられても何ら気分が変わることもなく誰もが黙って足早に横山の後ろを通過していく中、プロジェクターのファンがやけに大きな騒音に聞こえる。プロジェクトリーダーの叱責というのは功を奏することもあるが今日の終わり方は良くない。ただ冷静さを欠き、怒りをぶつけただけにしか見えない。藤原は課長とはいえプロジェクト運営に慣れておらず、やはりまだ粗削りな面が否めない。それにしても開発タスクリーダーの表情が気になる。直前までのは開発タスクの遅延報告のスライドを映していたプロジェクトも今は映すものを失い黒い光を壁に投げ続けている。プロジェクターのスイッチを切ろうと立ち上がった時に背後に藤原が立っている事に気が付いた。その顔にはまだ微かに怒りがとどまっていたがさっきほどの覇気はなく、なんとなく意気消沈してもみえた。

「やっぱり・・・まずかったよな・・・」 理解はしているようだ。

 「藤原さん。開発メンバーの顔観察しました?」

「顔?相変わらず覇気のない感じだったのは見たけど・・アイツらなめやがって・・・」

「まったまった。思い出しても腹がたつのもわかりますけどね。彼ら何か苛立ちを感じている様にみえたんですよね。」

「それは俺が叱り飛ばしたからだろう?」

「いや、違うんですよ。会議室に入ってくるときから何かこう・・・」 横山は思い出すように虚空を見上げる。「完成間近なドミノが倒れたときのような・・・ぶつけようのない怒りのような感じです」

PMOってやつはそんなとこまで観察してんのか。」

「いや、勘ですよ勘。ま、ちょっと設計については対策考えますね。じゃ。またー」

いつもの軽い調子で横山は去っていった。

 

“ぶつけようのない怒り”か・・・ そんなものがあるもんかねぇ。 

いつも誰かにぶつけている自分には理解しがたい感覚かもしれないな。それにしても横山のやつ対策なんてどうやるつもりなのだろう。うなり続けていたプロジェクタの電源コードを引き抜いた。