『図書館の魔女』によせて
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『図書館の魔女』 高田大介 講談社文庫 全4巻
何故、私はこの作品が文庫落ちした1年前に、この作品を手にしなかったのか。
大のファンタジー好きであり、大の本好きであり、魔女なんてキーワードも大好物。
けれど男性作家の場合、女性キャラが「ありえない」描写される場合がなくもなく、
そういうキャラが出てくると違和感の強さに作品世界に入れなくなるのだ。
だから、読み応えたっぷりであろう素敵な分厚さ
(一番分厚い4巻の背幅2.4cm!)にも警戒心が勝った。
何故、大森望氏の帯の惹句に目を留めなかったのか。
「権謀術数が渦巻く、超スリリングな外交エンターテイメント。」
おそろしく、通常イメージのファンタジーに寄せられる煽りから遠い。
その惹句には警戒など吹き飛んでしまったであろうに。
文庫が刊行されて1年、その前に単行本が刊行されたのが4年前。
遅れてきた読者には、今更語るべきことなど
このネットの海には残っていないのかもしれない。
大同小異の感想などごろごろしているに違いない。
でもそれはどれほど似ていても「私」の感想ではない。
だから、書きたいから書いちゃうもんね~。
何故、さっさと現物を取り上げ、最初の1ページを読まなかったのか。
大森氏の惹句に1巻を購入した私は
実際、最初の1ページで私は物語の魅力に堕ちた。
そして20ページ読まぬうちに残りの3冊を買いに走ったw
私は大のファンタジー好き。それも年季の入ったファンタジーオタクである。
ファンタジーにもまあ色々あるのだけれど
一番好きなのが「エピック・ファンタジー」、すなわち異世界の歴史もの。
架空の歴史が一番私を興奮させる。
もちろん、魔法とか魔法使いとか、大大大好物ではあるのだが、
きっちり構成された歴史ファンタジーなら、むしろ出てこなくてもいい。
タイトルに「魔女」とあっても、この物語には「魔法」も「魔法使い」も出てこない。
そう呼ばれるのは知恵深い賢者への称号のようなものでしかない。
人智を超えた不思議は存在しない。
「妖精」やら「ドラゴン」という非人間も登場しない。
多少、人間やめてしまっているレベルのキャラはいないでもないけれど
種族的にはあくまでも人間の範疇でしかない。
歴史ものというと、戦争の歴史になりがちだ。
人が自分の欲求を他者とぶつけあい、諍いになるのは避けられない。
これが国家間の事になると戦争になる。
現実の世界情勢を見ても戦争は続いている。
けれど、当事者にとっての戦争というものは益のないものなのだ。
働き手を取られ、失い、人も土地も疲弊する。
なのに何故戦争はなくならないのか。
引くことのできなくなった主義主張ゆえのこともあろうが、
あとは一部が利益をむさぼるために引き起こすからだ。
二国が第三国の陰謀により一触即発の状態に追い込まれ、
国内も第三国と連動して蠢く派閥が暗躍する。
その状況にありながら、武力を持たず、ただ「言葉」を武器として
図書館の魔女は「戦争を起こさないための戦い」に挑む、
これはそんな物語だ。
山間の鍛冶の里から王宮の命をうけ、少年キリヒトは
高い塔こと世界最古の図書館の番人に仕えることになる。
魔女と呼ばれるこの代替わりしたばかりの番人の名はマツリカ。
キリヒトとそう変わらぬ年頃の少女
(姉弟のよう、と表現されたりもするので少し年上であろう)であり、
誰よりも言葉を知り操るにも関わらず、
口から言葉を発することがかなわぬ身であった。
この設定がすごい。
喋れないマツリカだが、これがもう誰よりも饒舌。
巧みに手話を使い、それだけで飽き足らず
もっと表現豊かに語れるようキリヒトと指話なるものまでつくってしまう。
まあちょっと、かなり、口が悪く人も悪いのだが
それを上回る吸引力を持っているのだ。
(しかし私個人はマツリカに悪し様に罵られた時点で
尻尾巻いて心折れてしまう確信がある)
そしてそんなマツリカを主として主に手話通訳として勤めるキリヒトが。
…うん、可愛いw
ある意味、君は癒しだ。
たとえ君が何者であったとしても、可愛い。
キリヒトとマツリカの間に流れる本人たちすら分かっていない感情は
いい加減育っているようだけれど
自覚するまでにどれほどの年月を必要とするか、謎。
マツリカの二人の側近、対照的な才女、ハルカゼとキリン、
ヒヨコと呼ばれる政治家、
マツリカに仕えることになる近衛の5名、
諸悪の根源(?)ニザマの摂政ミツクビ…
など魅力的な人物も多い。
でも私がうっかり惚れ込んでしまったのは老齢のニザマ帝であった。
じじい、只者じゃない!
さて、マツリカらの住む国は「一ノ谷」と言い、この世界一番の大国である。
文化的には中世ヨーロッパのような感じ。東大陸にある。
おそらく言語的にラテン語とそこから発達した俗語が使われる。
イタリア~フランスあたりっぽい。
多島海に面して人種的には移民も多く、かなり雑多に混血もしている。
その一ノ谷を敵視して陰謀を繰り返す「ニザマ」(二津間)は海峡を挟んで向かい合う
西大陸の東に広がる大国だ。
こちらはもう、完全に唐~明くらいの中国。
千年を超える帝室を戴きながら、宦官の官吏が専横する。
毛筆にて表意文字、つまり漢字を使用する。
さらりと李白の詩が出てきたりもしてニヤリ。
惜別の詩が陶淵明でニヤリ。
さて一ノ谷と戦端を開こうとしている国を「アルデシュ」という。
こちらはどうも東欧圏に近いオスマントルコ風。
その他、今回は出てこないが多数の人種、国があり、
マツリカが愛してやまない古典島嶼(とうよ)諸島の叙事詩は
古代ギリシャのものが由来だろうか?
そのあたり不勉強のため勘。
過去の人名や地方名がこちらの世界のものがあり、
「あれ?この世界と繋がってたっけ?」
と一瞬悩むけど、そんなことはない。
どう見ても大陸や島の位置も形も違います。
作者は比較言語学の博士らしく、代弁者たるマツリカが
滔々と語る「言葉」をめぐる内容が正直難解でよく分からない。
なんとなくで終わってしまうのが申し訳ない。
でもそれらのペダンティックな内容すら、
物語の中の重要な、太い軸になる。
なんとなくでも面白く感じるから、いいんだ。
正直、情けないけどね。
さて全巻通して読むのに3日かかり、
2巡目の通し読みすら2日がかり。
3巡目のつまみ読みに入ったのだが、
正直続刊が読みたくて死にそう。
税別2700円の単行本でも買う気満々であったが
なのに出版社にも在庫がない。
アマゾンのマーケットプレイスの価格見て怒り心頭。
一番安いので11,000円とか!!!!!
正直、5,000円までなら出してもいいと思ってたけど甘かった。
しかしそのアマゾンで来月5月中旬に、この続刊が文庫化するのが判明。
おそらく在庫がどこにもないのはそのせいだろう。
一ヶ月、耐えれば続きが読める。
きっと1年遅くこの本を読んだのは、間を置かず続きを読めるようにという
天の慈悲だったのかもしれない。
しかし続きに飢える私にとってこの一ヶ月が遠い。
耐えられるかなあ…。
文字数制限があやういので、ひとまずここまで。