今年は感想を書く訓練なのだ

吉春

自分の思った事、感じたままを人に伝える事って実は難しい。「なにそんなんで感動するわけ?」って事が往々にして起こりうるからだ。

夢の欠片その2(血を受けし者)

小説/詩

●血を受けし者
仏壇には、祖父ちゃんと、よしの姿が燻る香に揺られて微笑んでいた。
祖父ちゃんに梨、よしにも梨だが、これは正しい組み合わせである。
どちらもそれが好物であることだけは、しっかり忘れずにいるばあちゃん。
他の事は、怪しくなってきたが、それはやむを得ない。

「よし、あの頃は楽しかったねえ」

祖父ちゃんへか、愛猫へかは分からないが、どちらか片方へ語っているとは思えない。
生前に祖父を呼び捨てにするばあちゃんに、お目にかかったことはないが、
きっと二人きりの時は、そうして居たのかもしれない。

「あ~あ、俺にもばあちゃんみたいな嫁に、巡り合える時が来るのかなぁ、もう諦めてるけど」

吉春とて、思いを寄せる君は居るが、とても手の届く所にない事は自覚していた。
そんな弱気顔を、水がめに映るまん丸お月様でぬぐうと、床に就いた。

「秋ってやだなあ、なんか寂しいよ、特に今年のは」

ほうほうと、吉春の戯言を聞く梟の声に、夜は更けていった。
意識は巡り、他愛もない吉春の世界へ、一匹の子猫が顔を出した。

「みゃ~ぅ」

「なんだお前、生きてたんかよ、心配かけやがって」

「ってか、お前だいぶちっちゃいけど、ちじんだんか」

驚いた様子で、引き下がる子猫。
と思った直後、物陰から奇襲を食らわしてきた。

「すきあり!」

「いてて、なんだよお前、痛いだろ」

「ってか、すきありとか、祖父ちゃんかよ!」

「え!猫がしゃべった」

そこへ駆け込んできて、抱き上げる姫御。

「だめでしょ、よし君、そんな乱暴したら」

「これも我が家の伝統じゃから、やむなし」

この姫御の姿は、ばあちゃんのアルバムにあった、その人である事は時期に知れた。
そして、この子猫の行動とその声は、紛れもなく祖父ちゃんそのものだった。
なんか不公平な取り合わせであるが、子猫の方はそれを不満に思う風でもなく、話始めた。

「実はな、吉春」

つづく

  • 吉春

    吉春

    2017/09/28 13:53:29

    ●血を受けし者(つづき)

    「男子たるもの、夢を大きく持て」

    「はい、はい。そうでしたね御祖様」

    「ばっかもぉ~ん、話は終いまで……」

    いつもの通りであった。
    語るところによると、浮世と隣合わせの霧夢国。
    この国は、人が人として歩み始めた時代から、
    形作られし御霊の国とを結ぶ国。
    この国を通らずして、懐かしき故郷と心通わすことは成らないと云う。

    人は霧の中に、それぞれ道々を行く夢の旅人である。
    小さな霧の一粒一粒が、雫となり心を寄せ合い、一筋の流れを生む。
    何もない所では、何時までたっても霧は雫とはならない。
    こうしてして生まれた流れは、夢の欠片をつなぎ合わせて、霧夢の国の広がりを創った。

    「ところがじゃ!」

    「昨今、かつてない危機に瀕しておる」

    「別にいいじゃん、夢の話だし」

    「そうは、いかの~ぉ」

    バシッ!何かをたたく音に言葉が途切れた。

    「いてっ、じゃない、い、いかんのじゃ……」

    以前よりこの世界は、悪夢が幅を聞かせ、世界を蝕んでいた。
    霧夢の国の皇女様は、これに立ち向かう志士を募った。
    そして、選ばれしものには夢我珠を授け、秘めたる力を引き出す、あやかしの呪文を教えた。
    悪夢を吹き払うためである。

    「この珠を操るには、コツがいる」

    「しか~しじゃ、最も大事なのは、血じゃ」

    「えぇ~~~、やだな俺そういうの」

    「え~い、武士の家系にありながら、情けない」

    「親から子へと、孫へと受け継いでいるそれじゃよ」

    「なぁ~んだ、そうか、ほっとしたわ」

    「でっ、珠と血と、お祖父ちゃんと俺、いったい何つながりなんだい?」

    「にぶいやつだな」

    「ふふふっ、よく似たよし猫ですこと」

    つづく