【お話】冬ごもりの前の、エリクシール作り
貴婦人でもあるけれど、薬草魔女としての仕事もあるの。冬ごもりの前に、エリクシールを作らなきゃ
もらったステキコーデ♪:10
わたし、お城に住んでいるの。
お城と言っても、うちの領はとても小さくて。石造りの家に、ちょっと塔がついたぐらいよ。
獣や魔物、盗賊から、村人を守るのは、領主の一族のつとめ。
父も兄も弟も、体をきたえて、見回りをかかさないわ。
そうして、領主一族の女たちには、館を整える仕事のほかに、村人の健康を守る仕事も任されている。
わたしは、薬草魔女の弟子として、
十年以上、学んできたわ。
太陽の力が次第に衰えゆく、冬の季節。
もう一度、太陽が力を取り戻す春の訪れが来るまで、
ここで、家族を。村人を。守るのは、わたしたちの仕事。
糸つむぎの準備をしましょう、みなさん。
隙間風をふせぐ、壁掛けを作りましょう。
毛織の衣服は十分にある?
秋に集めた食料の確認を。
雪が降り始めれば、外にはなかなか、出られなくなるのよ。
夏を思い起こさせる、いちごやベリーの砂糖漬け、
冬を乗り切るための、干しリンゴ。たっぷりあるかしら?
塩漬け肉は、なんとかあるわね。
小麦や大麦の粉に、湿気が入らないようにしなきゃ。
思い出の花のポプリは、部屋のすみに。春までこれを見て、心をなごませましょう。
あとは、薬草魔女としてのわたしの仕事。
病気がはやらないように、
せきや、熱を鎮めるための、薬づくり。
子ども用にはシロップも作るわ。
ミントに、セージ。ラベンダー。
生姜と、オレンジやレモンの皮もあったかしら。
はちみつがあれば、それも良いわね。
マリーゴールドの花びらも。
エリクシールは、花のエネルギーや、ハーブの薬効を閉じ込めた、
薬草魔女の薬。
アルコールで保存するから、お酒だと思っている人が多いけど、
太陽の力も入っているのよ。
魔女のレシピは、村ごとに違う。
大地に根差すわたしたちは、
育ってきた場所、暮らしている土地から、力をもらう。
その土地で育ち、その土地で採れるものを、薬にしてゆくから、
それぞれの村で、独自のレシピになってゆく。
知っていた? 同じ種類の薬草でも、
あたたかい土地と、寒さの厳しい土地、
光の多い場所と、風の強い場所とでは、
育った薬草の薬効の高さや、症状に効く傾向が変わってくるのよ。
魔女は、そのあたりも見極めなければならないの……。
さあ、
太陽の光を集めに行きましょう。
太陽と大地に、感謝を込めて。敬意をこめて。
世界に対する愛を込めて。
それがエリクシールに力を与えるための、
下準備。
わたしたち、薬草魔女の、
何気ない、けれど、
大切な。日々の、月々の、年ごとの仕事。
***
今と違い、古代から中世にかけては、人の寿命は五十まで生きれば長生きだとされました。
騎士などは、四十そこそこで亡くなるのが普通。
だから分業するのは当たり前で、だれもが、自分の役割を持っていました。
そういう時代のイメージで書いてみた話です。