封印された遺書(3)
君岡は北野の行為に甘え、「君のところの旅行のパンフレットがなくなったよ。」と連絡を受けると、電車に乗ってパンフレットを届けた。北野と会うたびに昼食をしながら、政治のことや経済情勢のことで雑談をするのが楽しみであった。
「今日はね。午後の3時から顧問の古屋弁護士が来てくれて、無料の法律相談をすることになっているのだ。2年後輩なんだが、学部が違ったから君は知らないだろうが、紹介するから、何かあったら、役立ててくれたらうれしい。将来的に彼は議員に出たい希望を持っているらしいよ。」
「ほーそうなの。」
北野の言葉に刺激されたのか、相続のことで弁護士に相談しなければと君岡は考えていたので、いい機会かもしれないと思った。事務所に戻ると間もなく古屋弁護士は到着した。君岡より背が高く、何より目鼻立ちの奇麗な顔であった。この姿なら選挙に出れば、いいポスターができるだろうと君岡は想像した。差し出された名刺を拝むように受け取って、君岡は深々と頭を下げ、名刺交換した。
「古屋さんは苦労人だから、何でも相談にのってくれるから。古屋さんの応援があったから、俺も事務所をもてたから。」。と北野は笑いながら、後輩を称えるような言い方をした。
「いやー。人生流転の後に、やっと弁護士になった者ですから、まだまだ、これからです。いい年をした一年生ですよ。これから経験を積んで行きたいです。」
飾らない性格なのだろう。古屋弁護士は人懐っこさを感じさせる人物であった。
この時、中年の女性が訪ねてきた。
「あのー。チラシでみたものですから。」
無料相談に来た人らしかったので、君岡は失礼することにした。狭い事務所であるから、部外者は去るべきだと君岡は直感した。隅にカーテンレールが取り付けられて机を鋏んで椅子が2脚置かれていただけであった。
機会を見て、また連絡するからと君岡は片手を上げて、北野に合図をして分かれた。帰路の電車の中で君岡は実弟のことで、古屋という弁護士に相談しなければならないようになるかもしれないと感じた。弟は事業に失敗し、かなりの借金を抱え込んでいるようであった。いずれ弟が何かを言ってくだろうと推測できた。