ごま塩ニシン

封印された遺書(5)

小説/詩

 営業から会社に戻ると、北野さんから(パンフレットがなくなったという連絡が入りました)というメモ書きが置いてあった。いい機会であった。古屋弁護士に相談する前に弟の宗則の件で、北野の意見も聞いておきたいと君岡は感じた。早速、パンフレットをワゴンに詰めるとパークショップ『よろず生活館』へ向かった。北野の所にパンフレットを置くようになってから周辺地区から旅行申し込みが出てきたのである。君岡は顧客の住所マップというのを作成していた。新規に申し込みがあると地図に印を付けていくのだが、点の数が増えてきた。だから、『よろず生活館』へ寄るだけでなく、周辺のビラまきをして来ようという欲が出てきたのである。だいたい宣伝チラシの配布効果は五百枚に1件の申し込みがあれば、大成功である。1時間半ほどで持って行ったチラシを完全消化してから君岡は『よろず生活館』へ向かった。
「ずいぶんと汗かいてるじゃないか。どうかしたの。」
 汗かきの君岡は北野に指摘されて笑った。
「いやね。ここへパンフレットを置くようになって、この周辺からの申し込みが増えてきたんだよ。まったく、君のお陰だ。」
「それはよかった。俺の方の仕事もぽつぽつと入ってきている。転勤が決まったので家を処分したいとか、子供のイジメにあったので相談に乗ってくれとか、生活館の看板通り実にいろんな相談が舞い込んでくるよ。」
「なるほどな。」
 この時、冷えたお茶を中年の女性が出してくれた。
「君岡君。紹介しておくよ。パートで手伝ってもらっている藤木さん。」
「よろしくお願いいたします。」とお互いに頭を下げた。
 小柄で丸顔の女性を見て、北野の奥さんが手伝いに来ているものと思っていたが、予想と違っていたので以外でもあった。
「ちょっとだけ、ウッドパークへ出かけてきますから、藤木さんよろしくお願いいたします。もし、客が来たら連絡してください。」
 二人は公園を横切って、大きな銀杏の木の側にあるコーヒーショップへ入った。
 北野は心得たもので事務所で待っている藤木さんへコーヒーの出前を店員に依頼した。彼の気遣いには人の心を掴む熱いものがあった。