ごま塩ニシン

封印された遺書(6)

小説/詩

 君岡は、弟が家の権利の半分を現金で欲しいと要求してきた経緯を北野に詳しく説明をした。
「君の家の資産評価額がいくらになるか、分からないが、いずれにしても話し合って解決するしかないだろう。喧嘩したって、どうしようもないから。」
「どんな方法があるの。」
「普通は、弟さんが相続放棄をして、相続相当分の金額を贈与として税務処理をしていく方法が一番いいのではないだろうか。」
「どのくらいの金額になる?。」
「確か、君岡君の家は、御祖父さんが戦前に建てた古い家だと言っていたね。家を改修して、いくらか資金をつぎ込んでいるにしても、まあ、建物の価値はないね。土地だけの評価になるだろう。今、住んでいる土地の路線価がどのくらいになるのか、知らないが、土地はどれくらいの広さになる。」
「そうだな。約50坪くらいかな。」
「坪単価が50万円として、約2、500万円。この半分だと1、250万になるね。計算通りに弟さんが要求しているのかどうかだよ。ここから、君とお母さんと弟を入れた三人の話し合いだと思うよ。」
 この時、北野の携帯が鳴った。来客らしいので事務所に戻ると北野は言った。
「そんなに心配すほどの問題じゃないね。君岡君のケースは一般的なよくある事例だよ。僕の家の方なんかは、もっと複雑で、深刻なんだよ。また、ゆっくり話しをするけれども、相続のことで、嫁さんが別れたいと言うくらいだから。」
「ええ。奥さんが別れたいって、それ本当か。」
「嘘はいわない。本当の話さ。女って、俺も、よく分からんな。」
 君岡は返す言葉がなかった。北野が相続のことで、嫁さんと分かれ話をしなければならないくらい深刻な問題を抱えているとは、初耳であった。もう、君岡自身の話題など吹っ飛んでしまったかもしれない。事務所の手前で君岡は北野と別れた。お互いに、これまでとは違った密度で話し合ってみたいと感じた。帰路の電車の車窓を見ながら、知り得ない世間の無数の動きがあるように思えてならなかった。
 彼は、どんな悩みを抱えているのだろうか。君岡は自分のことを忘れ、海に沈む夕暮れを見入った。