ごま塩ニシン

封印された遺書(8)

小説/詩

 喪中ハガキを手提げカバンに入れると、君岡はパークショップにある『よろず生活館』へ急いだ。電車の中で喪中ハガキを取り出しては何度も読み返した。不審に思う点があった。<ご愛顧賜りました『よろず生活館』ですが、館主北野政頼が十月二十五日に急逝いたしました。新年のご挨拶は失礼させていただきますとともに『よろず生活館』は閉館させていただきます。皆様の温かいご支援に深く感謝いたします。藤木文子>となっていた。普通、喪中ハガキならば、差出人は妻からのものになるだろう。ところがパート事務をしていた藤木文子になっている。どうして、なのだろう。十月と言えば、旅行業界では一番忙しい時期で君岡は団体のバス旅行で東奔西走していた時であった。
 不安と言えば、『よろず生活館』が閉館となれば、事務所に駆け付けたところでシャッターが降りているかもしれない。駅に着くと君岡は駆け足でパークショップをめざした。そこに段ボールに荷物を整理する藤木さんの姿があった。
「ビックリしました。」
 こう言って、君岡は喪中ハガキを差し出した。
「ああ。来ていただきましたか。本当に残念ですわ。急でした。」
「事故にでも、あったのですか。」
「いえいえ。急性膵炎だったのです。事務所でお腹の当たりが痛むと言うことで救急車を呼んだのですが、ああっという間でした。翌朝に亡くなりました。」
「そんなに急に。一瞬じゃないですか。」
「前日に顧問の古屋弁護士とお酒を飲んでいたらしいのですが、その時は何にも、異常がなかったらしいのですが、先生と分かれてから、急ぎの用事があると言って、本人は生活館に戻ってきて、徹夜で仕事をしていたらしいです。私が、朝出勤するとシャッターが半開きになっていて、ソファーで寝ていましたから。それから、しばらくして苦しみだしたのです。私もビックリして救急車を呼んだのです。もともと、膵臓が弱かったみたいですね。」
 君岡は藤木の説明を聞くばかりであった。
「古屋弁護士が私に生活館を続けるならば、応援するからと言っていただいたのですが、私には北野さんのような能力がありませんから、閉館にしたのです。」