ごま塩ニシン

封印された遺書(10)完。

小説/詩

 駅に向かって歩を進めようとした時であった。藤木文子は謎めいたことを言った。
「実は、こんなこと言っていいのかどうか迷うのですが、亡くなった北野さんの机を整理していると奥さん宛の遺書が見つかったのです。」
「遺書?遺言書ですか。」
「そうです。」
「それで。」
 君岡は藤木文子の顔を真剣に見た。彼女の口から何が語られるのか、一瞬の緊張が走った。北野が何を言い残したかったのか、知りたかった。
「古屋弁護士に渡しましたよ。先生もあて名が大野明美となっていたものですから、困ったなと正直に悩んでおられました。」
「どうしてですか。」
「でも、葬儀もかかわりあいたくないと拒否された人ですから、遺言状を果たして受け取ってくれるかどうか、ですよね。」
「なるほど、そういうことですか。あて名の大野明美という名前が奥さんの旧姓の名前になるのですか。」
「でしょうね。私も遺書を見て、初めて知りましたから。」
「で、その後は古屋弁護士がご本人に会われて、遺書を渡されたのですか。」
「先生に聞いたのですが、ご本人は、あくまでかかわりあいたくないからといって受け取りを拒否されたままらしいですよ。」
「それでは遺書に何が書かれていたのか、分からないということですか。」
「そうでしょうね。私も興味がありますが、その後、古屋弁護士からは何も聞いていません。それに個人情報になりますから、直接に関係のない者には遺言書の内容が分からなくて当然ですからね。先生は弁護士だからといって、勝手に開封するわけにもいかないと仰っておられました。裁判官の立ち合いが必要だとも言っておられました。」
「ということは、奥さんが拒否している限り、北野の遺書の内容は永遠に封印されることになるのか。これは謎の封印だな。こんなことってあるのか。」             終り。

  • 吉春

    吉春

    2017/12/20 02:55:58

    こんばんは
    物語の冒頭にあった意味ありげな問いかけ⇒”北野の奥さんはどのようにしたのだろうか。”?
    結局離婚して受け取り拒否したから、遺言書は封印されたで終わり、と言う結末でしょうか?

    遺言の内容も知りたいし、離婚と受け取る拒否の理由もしかりです。
    その辺がくみ取れないと、そんな訳の分からん遺言書なんてどうでもいいじゃん。て思っちゃいます。
    単純に考えて、奥様は内容をおおよそ把握していて、それがろくな内容でないため拒否した。
    このように結末を理解しておくことにします。
    ありがとうございました。