ぺんぎんうどん

ちょみ

ぺんぎんの飼育法とかうどんの通販をやってるワケじゃありません

壁物語(←思いつかなかったので適当)

自作小説

参照画像【 https://goo.gl/LytLt6 】

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 昨日はクリスマスだった。でも、私には関係ない。



 一条鮎子、職業介護士。42歳という年齢はそのまま恋人の居ない年月を指す。
 異性に淡い夢のような気持ちをいだく、という年頃になるより早く両親は消えていた。
 引き取られた、居心地のあまり良くない親戚の家の誰かが『お前は棄てられたんだよ』と言ったのを覚えているけれど、本当のトコロは何も知らない。
 こんな私に、月~金勤務ではないシフト制の仕事はありがたかった。
 クリスマスイブも当日も、年末年始に盆正月、GW。テーマパークやファミレスに限らずコンビニ、果てはしょぼくれた喫茶店まで、あらゆる場所で家族連れや恋人が集まりたがる時季、そういう場所に居合わせなくてすむ理由ができる。
 こういう時は仕事をして、寄り道せずにさっさと家に帰って、買い置きの缶チューハイをあおったら何も考えずに寝てしまえばいいの。そうすればまた、繰り返しいつもの朝が来て、いつもの世の中が始まるんだから。

 …… でも、やっぱりこの時期は、ねぇ ……

 溜息を小さく吐きだし、私はスーパーのフードコートでうどんを受け取ると隅っこのテーブルに着いた。
 クリスマスイブ、そして当日と働いて次の日、つまり今日休みをとって久しぶりに買い物に来ると、クリスマス商戦も過ぎて人は一旦まばらになったが、その代わりクリスマスとお正月と半々だったスーパーの各コーナーは

 年越しは家族で鍋!
 お正月こそ皆で焼き肉!
 恋人の新年はお洒落にフォンデとワイン!

 一気に正月の装いで華やいだ。
 鍋コーナーでちらりと見た家族用の大きな土鍋の隣に、小さな一人用鍋が並んでいて、そういえば私も持ってるわ、と思い出したけれど、「独りで、ねぇ……」鍋用の材料を買う気にもなれず通り過ぎた。
 最近では独り鍋といって、流行っているらしいけれど、実際に私も何度かやった事があるけれど。あれは《家族》というものを知らない私がやっていいものではなかった。冷めたような、渋い記憶しか残っていない。
 美味しい物を暖かく食べられるのは確かにありがたかったけれど、所詮は≪そういう家族≫を幼少から経験した事があって、温かさを知っているという基盤があるから、独りでも楽しめるものなのよ。そんな暖かな《誰か》との記憶もない自分がやってみても、鍋の上に揺らいで消える湯気のような、不確かで浅はかな真似事でしか……無い……

 うどんを一口すすって、また溜息をつく。
 二口目を拾い上げる気にもなれずに、湯気の消えようとしている丼から何気に目を逸らした。瞬間。
 …… 正直、一瞬、『ぎょっ』、とした。

 バーカ
 クソがしねや

 黒いペンで小さく、雑に殴り書かれた文字。
 クリスマス前にもこの席でうどんを食べたけれど、あの時には何も無い白い壁だったはず。
 っていうことは、イブか当日に書かれたのかしら?
 急に胸の奥から何かよく分らない…… これは何? こんな風に溢れて来るものって何? 驚いて、けれど興味も隠せなくなってしまって、その小さな文字の上をそっと指でなぞってみた。

 恋人かしら?
 別れたの?
 だとしたら可哀そうね。こんな裏さびれたスーパーのフードコートが最後の場所になってしまったなんて。
 ここは幸せいっぱいの、だけどお金の無い学生カップルなら、裏さびれてなんか見えない、笑ってひとつのアイスクリンを分けあって過ごせる場所だもの。そんなカップルを時々見るわ。だけど別れの場所に選んじゃうのは、少し気遣いの足りない人だったのね。
 何で別れたの? 他に好きな人でもできたの?

 それとも、待ち合わせたけれど相手はとうとう来なかった?
 きっとわくわくして楽しみだったんでしょうね。相手は何で来なかったのかしらね。
 他に気になる人でも居て、そうだわ、両天秤ってやつにかけられてたのかしら。

 それとも……時々見かける、お菓子のコーナーで駄々を捏ねてたあの子?
 サンタさんにお目当ての玩具を貰えなかったの?
 でもいいじゃない。
 ここでお母さんと『ふーふー』って、『おいちぃー』って、いつも食べてる姿を見るわよ。それが一番のプレゼントだって、いつかあなた気付けるといいわね。

 そうね、私の職場にもそんな男の子がひとり居るわ。まだ入社して二年目なのに、私には『はい、はい!』って素直に返事するのに、新人の女の子にはとてもエラそう。『分らない事は俺に聞けよ』って言ったくせに『まだできないのかよ』なぁんて。きっと両天秤とか、こんな場所で別れる男の子って、あんな感じの子ね。

 私は最初に思い描いた失恋の女の子、もしくは男の子を脳裏に呼び戻した。

 貴方を振ったのは、彼みたいな男の子、女の子だったのかもしれないわね。きっと自分の都合のいい相手にだけいい顔を見せて、もっと都合の良い相手が見つかれば簡単に乗り換えちゃうの。まるで電車みたいね。

 今度は待ちぼうけの女の子、もしくは男の子を呼び戻す。

 人を待たせて平気な人なんて、信用しちゃダメよ。信用しちゃった貴方も悪いわ。
 今度はもっと誠実な人を見つけなきゃね。

 …… それとも? ただの喧嘩だったのかしら?
 恋人なら、クリスマスに些細な事ですれ違って、喧嘩もするかも。
 どんなタイミングでこれを書いたのかしら? どっちが書いたの?
 相手がトイレに立った隙に書いちゃった? その後はどうなったの?
 一緒に帰った? それとも別々に帰っちゃったの?
 でも、ただの喧嘩ならそれもいいわね。恋人には次々に楽しい事が起こる季節よ。
 貴方が男の子なら、着物姿の彼女に初詣で惚れ直すのもいいわよね。
 貴方が女の子なら、人混みの中でそっと手を繋いでくれる彼にもういちど恋をするのも素敵よね。
 どっちにしても……

 壁の文字を指でなぞりながら、私は笑っていたのだろう。いつものあの子供が、「お母さんあのおばちゃん笑ってる」と言ったから。
 そしてお母さんが「きっとクリスマスにいい事があったのよ」と返事したのには吹き出しそうになっちゃったけど。
 そうね。
 私もいいクリスマスだったのよ、本当は。
 仕事は事故もなくて病気もなくて、お年寄りたちも穏やかで、ささやかなクリスマス会に皆喜んでくれた、本当に本当にいいお仕事の一日だったわ。
 そう思えば、私の人生にも全く温もりが無かったわけじゃないわね。

 なんだか、胸の中で風が舞い上がる、そんな感じがした。

 …… だからね、貴方 ……
 喧嘩ならいいわね。
 でも、早く仲直りしなさいね。恋人じゃなくても、お友達だとしても。ただの喧嘩なら、ね。
 この時は心底「しね」って、そう思ったのかもしれないけど、こんな風に猛々しく、感情を露わにしてしまえるような相手になんて、また巡り会えるとは限らないのだから、ね……

 冷めたうどんを汁まですすって、私は胸を暖かくしてまた売り場に戻った。
 そうだわ、お葱とお豆腐、それから……エノキと、鶏肉? かしら?
 買い直す材料を思い浮かべながら、きっとまた私の頬は緩んでいる。


=============================  了  ===

今日婆ちゃんを病院に連れてった帰りに寄った
スーパーのフードコートで見た落書きで創造っちゃったんだぜ!
みたいな(笑)

ps : 勝手に壁に落書きとかしちゃダメなんだよ!


#日記広場:自作小説

  • ちょみ

    ちょみ

    2017/12/28 20:09:52

    >ねこまんまさん

    ばあちゃんの用事の待ち時間に見つけてしまって、
    あんまり時間があったので、つい色々考えてしまいました(・∀・;)
    でも真実の理由が殺伐とした物だったら、ちょっと怖いですねぇ
    やっぱりハッピーエンドが一番です(´▽`)
    書いた人も、今頃はこんな事書いた時の気持ち忘れて、ハッピーエンドしてるといいですねぇ^^

  • ちょみ

    ちょみ

    2017/12/28 20:07:28

    >紫草さん

    息子さん、これからどんどん親離れして、社会人になる頃にはもっと離れてしまうんでしょうねぇ
    でも、ある程度年を取ったらお嫁さんが出来るまでの間、また戻ってくるんじゃないかなぁ
    ちなみに私はイベント苦手ってわけではなかったけど
    せっかくの稼ぎ時! って気持ちが強くて働いてばかりおりました(・∀・)

    交換ありがとうございます~><
    目玉含めて3つももらったのに、私2つでなんだか申し訳ない…
    けど、嬉しいー>▽< ありがとうございました!

  • ちょみ

    ちょみ

    2017/12/28 20:02:09

    >ゆきちゃま

    ばーちゃんの銀行の用事を隣のスーパーで待ってる間、時間かかるし暇すぎて、つい…(^_^;)

    >「おかあさ~ん あのおばちゃん笑ってるよ?」
    >「シッ!見ちゃダメ!!」←え?
    現実的にはこっちが正解ですねぇww
    私も絶対そう答えるww

  • ちょみ

    ちょみ

    2017/12/28 20:00:16

    >まぅまぅ

    落書きは軽犯罪だから!(・∀・;)

    何となく色々創造したけど、もし本当に殺伐とした気持ちで書いたんだったら笑えない~(^_^;)
    そういえば昔専業主婦だった頃、元相方と私のカレーの好みが違うので
    わざわざ鍋2つ使って鶏カレーと牛カレー作ってましたよ(^_^;)
    でも食べる物で我慢するのも嫌だし、小なべ二つってのも
    「だーりんのも一口ちょうだい♡あ~ん♡」なぁんてできて良い!
    良いわぁぁぁ! 今度やってみて!

  • ねこまんま

    ねこまんま

    2017/12/28 08:52:47

    落書きの言葉から、こんなに話を膨らませることが出来るなんて!
    言葉自体は酷いけれど、読み終わりは気持ちが暖かくなりました^^

    まさか、書いた人も自分が書いたものが
    このような物語になっているとは思わないでしょうね~

  • 紫草

    紫草

    2017/12/28 00:32:10


    紫草
    削除
    2017/12/28 00:25
    すごぉい!
    落書きで、ここまで膨らませるなんて素晴らしい!
    私もイベント苦手でした。
    今年は友達の家に遊びに行って、息子は「ぼっちカラオケ」って出かけてしまいました。
    大きくなると、だんだん一緒にいる時間が減ってくるんですよね。


    黒ガチャのお願いいいですか?
    ・おてんばねこみみ
    ・茶々丸
    が出ていないんです。

    ・たま
    ・小槌
    ・ゆらゆら手鞠(紅)目玉
    ダブりあるので交換しませんか?

  • ゆき☢しま

    ゆき☢しま

    2017/12/27 14:29:04

    壁の落書きひとつで、それだけ創造できたらいいなw
    思わず笑みがこぼれるのでした・・・・
    そして
    通りすがりの親子
    「おかあさ~ん あのおばちゃん笑ってるよ?」
    「シッ!見ちゃダメ!!」←え?

  • まぅ

    まぅ

    2017/12/27 12:26:49

    たったあれだけの落書きで、ここまで膨らませるちょみちょみってスゴイw
    ウチは2人暮らしだけど味の好みが違うので、一人用の鍋を食卓に2つ並べてます。
    だって~とんこつ嫌いなんだも~ん(ー_ー;)
    なんかさ-、今度スーパーのフードコートに行ったら
    端っこの席に座って落書きしてみたくなったww