ごま塩ニシン

すれ違った影の交錯(6)

小説/詩

 大野明美は、古屋弁護士から別れた夫である北野政頼の遺言状のことで是非とも相談したいことがあると懇請された。亡くなった北野政頼の兄、北野圭太から親族として弟がどのようなことを遺書に書き残したのか、是非とも教えて欲しいと願っているということであった。このまま放置すれば、裁判沙汰になるかもしれないと軽く脅されたのであった。北野政頼との間で生まれた浩美の親権ついて争いたい意向であることが読み取れた。明美は思い切って、遺伝子検査を科学的にしてもらって、浩美は北野政頼の子供ではないということが証明されれば、この問題は解決すると決意した。
 遺言書で亡くなった北野政頼がどのような主張をしていたとしても、思い切って事実を明らかにすれば、兄の北野圭太にしても諦めざるをえないだろう。こう結論付けてから明美の心は決まった。古屋弁護士が裁判所と日程調整して明美は遺言書を受け取って、第三者を交えて遺書を開封したのであった。
 文面を読む内に明美の体は震えた。内容は次のようなものであった。
〔私の兄、北野圭太が子供が生まれないことでいろいろと検査をした。この結果、兄の圭太に精子が異常に少ないことが判明したと連絡してきた。兄が言うには、結婚する前に精液の冷凍保存を考えて、私に精子の検査をしてもらえと兄が言って来た。大野明美が好きだったので、明美と結婚する前に兄と同じように精子の検査をしたところ、自分の場合は無精子であることが判明した。しかし、このことを隠して明美と結婚した。それは検査では無精子と出ていても、子供は神からの授かりものというから結婚してみないと本当かどうか結論づけられない。奇跡というものがある。私は万が一の奇跡にかけて明美と結婚した。2年後に明美は妊娠し、浩美という女の子を出産した時は、まさに奇跡が起こったと思った。当時、組合の仕事で忙しかったこともあって、明美の気持ちを十分に支えてやれなかったことを悔いている。浩美が成長するにつれて明美との間で理解し合えなかったことは残念であるが、急に離婚をしたいというものだから、浩美さえ北野の姓を継いでくれさえすれば、たとえ離婚しても、北野政頼名義の財産を浩美に託すものである。〕