ごま塩ニシン

すれ違った影の交錯(8)

小説/詩

 家庭裁判所を出た大野明美と弁護士の古屋弁護士、北野政頼の兄圭太等の3人は勾配のある坂道を駅前へ向かっていた。北野圭太はさばさばした表情であった。弟の血筋から北野家の後継を模索するのは諦めざるを得ないという心情になっていた。古屋弁護士は、先輩であった故北野政頼のために貢献できることはないかと考えていたのであったが、遺言書の内容があまりにも衝撃的であったので、もう北野圭太からの依頼内容からも逸脱した事態になって来たので、この件に関して弁護士としての役割は終わったと感じていた。
 三人は駅前の交差点で分かれるものと思われたが、突然に大野明美がこういった。
「私の考えとして、子供の遺伝子検査をして、また、同時に政頼の遺品とかを調べて遺伝子検査に役立てるものを探してみて、政頼が遺書に書き残したように本当に関係がないのかどうかを調べてみたいと思うのですが、どうでしょうか。」
「明美さん。実際に検査するのですか。」
 古屋弁護士は明美の意外な提案に驚いた。
「ええ。やりたいです。」
「このように明美さんはおっしゃっておられますが、北野圭太さんは、どのように思われますか。ご協力していただけますか。」
「わしは、どうでもいいですよ。もう、考え方を変えるつもりですから。ただ、明美さんが証明したいというのであれば、おやりになったら、いいでしょう。」
 血縁関係がない以上、浩美という娘とは他人でしかないと北野圭太は割り切って考えていた。明美が、どのような男と関係して浩美が生まれてきたのか、圭太にとって何の関心もなかった。だが、駅に近づくにつれて、北野圭太は皮肉たっぷりな表情で締めくくるように言った。
「まあ、なんですな。検査費用は負担することはできませんが、結論がでたら、古屋さんを通じて、私の方にも報告してください。結論だけでいいです。」
「それでは。」と古屋弁護士も片手を上げて、雑踏の中に消えて行った。
 大野明美は唇の力を入れて、去って行く二人の後ろ姿を見ていた。明美の心の中は大野信彦のことで一杯であった。義兄との一夜の過ちが複雑な人間関係を生み出した根源である。浩美が信彦の子であることを証明して、明美は確信を持ちたかった。曖昧にしてきた自分の思い込みが悔やまれてならなかった。

  • アメショ

    アメショ

    2018/01/07 09:28:38

    出た。小説。
    血縁関係。
    時代が「シェア」をいいだしてから。迷走だ。
    私も誰かの親になった居たら、身に染みてただろう。