ごま塩ニシン

新怪アウトプッター(4)

自作小説

 福村の対応に由梨花は不機嫌な表情を見せた。「何よ、他人事だと思って、もっと真面目に考えろ」と非難の言葉を福村に叩きつけたいくらいであった。
「もし、君のスマホを一時的に預からしてもらえれば、技術開発室に高校時代の先輩で湯之原孝一さんという優秀な人がいるから、調べてもらうように頼んでみてもいいけれども。君の顔を見ていると、私は、あなたを全然、信用していませんと出ているからね。」
 突然の提案だったので由梨花は迷った。福村の感性は営業で鍛えられている。相手の反応を見て、素早く対応してくる速さに由梨花は即応しかねた。
「スマホが手許からなくなるのは、ちょっと辛いわ。だって、分身みたいなものだから、困るのよ。」
 福村は午後の研修のことを気にしているのか、時計を見た。
「じゃあ。もし、もう一度、同じような異変がスマホに発生したら、直ぐに連絡くれないかな。今後の対策もあるからね。」
 二人が席を立つと、経理部の宮田と入江が寄ってきた。
「東条さんと同期入社の福村です。」
 彼は宮田に軽く頭を下げて、よろしくと言った。福村のようなタイプは先天的営業マンというのだろう。歯磨きさえ念入りにして、オーデコロンでも匂わせれば、いい男なのにと由梨花は思った。同期というよしみで活用できる男でもある。これが由梨花の評価であった。
 その後、スマホの異常は起きなかった。1週間もすれば、由梨花の頭からもスマホ異変の関心はなくなった。月末頃になって、総務課の係長から経理課長にパソコン端末に異常は出ていないかという問い合わせがあった。
「東条さん。パソコンは順調に動いているか。」と浜村経理課長が声を掛けた。
「ええ。今のところ正常です。」
「そうか。内密だが、わが社がハッカーに狙われているかもしれないという総務からの連絡が入ったから、もし、経理資料などが抜き取られたら、大変なことになるから、異常な反応が出たら、報告をしてくれよ。宮田さんは、どこへ行った。」
「たぶん、お手洗いだと思います。」と由梨花は応じた。