ごま塩ニシン

新怪アウトプッター(5)

自作小説

 トイレで誰かと出会って、宮田弘子は長話をしていたようであった。席に戻ると浜村課長の姿を窺う様子であった。
「由梨花さん。課長、何か言ってこなかった。」
 宮田は体を伸ばして小さな声で訊いてきた。
「お手洗いだったのでしょう。そう、いっておきましたわ。」
 由梨花も声を、ひそめて応じた。すると、宮田は席を離れて、由梨花の傍まで遣ってきた。そして、内緒話をするように早口に話した。
「トイレで総務の峰平さんから聞いたの。今朝、プリンターをオンにしたら、何も操作していないのに他社の文書が印字されたんですって。それも、お得意さんのM社の取締役会の議事録が20ページにわたって出てきたと言っていたわ。それで、総務では朝から大変だったらしいよ。峰平さんが疑われて、お前、変な操作したんじゃないかって責められたんですって。」
「それで、さっき、課長が端末に異常は出ていないかと聞いてきました。ハッカーに狙われているのではとも、言っていました。」
 それにしても由梨花は不思議でならなかった。他社の資料がどうして、わが社のプリンターから出てくるのか。ネットの混線など、あり得ないと福村は完全否定していた。まったく考えつかない出来事であった。この時、由梨花は自分のスマホに起こった異常現象を忘れていた。会社の総務で発生した他社資料のプリンター流出事象と自分のスマホで発生した異常について、この事例から関連付けることは飛躍していたからだろう。思いつかなくて当然であった。だから、由梨花はスマホの異常を宮田に話題として伝えることもなかった。ただ、発生した社内での出来事について緘口令が引かれたが、噂は夕刻までに全社員が知るところとなっていた。
 帰宅時間が迫ってくると、気分が鬱陶しいのか、宮田は先輩のリーダーらしく、「久しぶりに飲みに行こうか。」と女連中を誘った。私服に着替えている時、宮田は峰平京子も誘っているからと由梨花に伝えた。


  • アメショ

    アメショ

    2018/01/19 06:20:03

    読んだ。凄いよ。ビットコインもびつくり。
    なんて、現代社会小説!。
    緘口令かんこうれいなんて、読めない奴いるんでは。(笑い

    にしても、OL時代、コピー機1つ、会社員は治せないのよねー、奴ら。