新怪アウトプッター(8)
「社長の仰る通りです。私も、そのことを心配していたのです。」
総務部長の平田は社長の言葉を復唱した。
「今のところ、自社のデータが漏れたかどうか、ですが、それはないと思いたいですね。これから、さらに精査してみますが、それらしき兆候がありませんから。それよりも、M社の方で情報の流失について気付いているのかどうか、ですね。」
吉岡室長は楽観的であった。それだけ技術者としての自信を持っていた。ハッカーの策略として、ターゲットにした企業のデータをネット上に拡散させて、第三者に自由閲覧させることによって企業にダメージを与え、これを脅迫材料にして、裏取引を持ちかけるという手法なら理解できないことはない。しかし、M社の取締役会の議事録をS商事に流すことが、どれだけの意味というか、価値があるのか、この点が曖昧に感じられた。ネット上の犯罪であるなら、それなりの動機がなければならない。
「技術的にM社のサーバーに侵入して、さらに、わが社に侵入してくるという二度の危険をおかすだけの目的があれば、話は違ってきます。ですが、M社の議事録の内容を見る限り、定例の取締役会で業務および営業報告を確認しているだけであって、わが社との取引関係について議題にしているわけではありません。データの流失は事故のようなものではないか、と考えているのです。」
吉岡室長の考え方にも一理があった。
「それでは、こうした事態がどうして起こったのだ。技術的に起こり得るわけがないと君は言うが、現実に起こっているではないか。起こったことが事実だろう。」
小野寺社長は再び、机を叩いた。
「分かりました。至急に技術開発室全員で対策を考えます。」
室長は深々と頭を下げた。
「何回も言うようだが、わが社のネット上に異常がないかどうか、情報漏れがないかどうか、精査してくれよ。分かったね。」
社長のデスクの前で三人の首脳陣は整列し直し、再度、頭を下げた。
三人が部屋から出て行こうとした時、小野寺社長は平田総務部長を呼び止めた。
「何か。」と平田は小野寺の顔を覗き込んだ。
「先方のM社に、書類のことで、どのように連絡するかだが、その前にM社の様子を探って来てもらう、いい手立てはないものだろうか。」
小野寺社長は目を泳がせながら、策はないかと平田に聞いたのであった。
アメショ
2018/01/21 08:26:59
素直に、連絡すればよかろうに。
探る!など、やっかいな。男子ってら。
おもしろい。