ごま塩ニシン

新怪アウトプッター(11)

自作小説

 週央だというのに居酒屋「魚秀」は混んでいた。それでも二階に上がる階段の下あたりで4人掛けのテーブルを確保できた。何にするか、注文書を見ているとスマホが鳴った。福村からであった。
「ちょっと、おれ遅れるわ。営業部長に頼まれたことがあるのだ。ちょっとだけ寄り道してから、そっちの方に行く。技術開発室の湯之原さんは、6時頃には行くと言っていたから。東条さんとは部署が違うので面識がないと思うけれども、あなたの顔写真を送っておいたから、写真を見て探していくと思うよ。あの人は専門家だから、スマホのことだけでなく、経理課で発生した例の異変現象についても、意見を聞いてみたらと思うけれども。」
 福村はまったく親しげに話した。
「分かった。けれどね、福村君。私の了解もなしに、私の顔写真を初対面の人に勝手に送信するなんて、ちょっと、肖像権の侵害ではないでしょうか。それに営業課の福村君が経理課の出来事を、どうして知っているの。おかしわよ。」
「今さら、何を言っているの。経理課の異現象を社内で知らない者はいない。そう堅いこと言うもんではない。私はね。忙しい仕事の合間を縫って、東条さんのご依頼に応えようと精一杯努力しているのです。お察し願いたいものですね。」
「まあ、しょうがないか。頼んだのは、こっちだから。なるべく早く来て。」
 スマホを切って、顔を上げると、すらっと背の高い、目鼻立ちの爽やかな男がスマホを片手に持って、由梨花を見比べていた。
「あのー失礼ですが、東条さんではないでしょうか。」
 男の声も低音で魅了的であった。
「はい。私です。東条です。」
 こう言って、由梨花は立ち上がった。
「福村に言われまして、私は湯之原孝一です。」

  • アメショ

    アメショ

    2018/01/23 06:28:30

    いちいちだが、「頼んだのはこっちだから」がキーだな。

    出会い方はいいじゃぁん!わーい。