ごま塩ニシン

新怪アウトプッター(12)

自作小説

「どうぞ、おかけください。」こう言いながら、イケメンで理系という湯之原のスタイルに由梨花の気持ちは熱くなっていた。
「割り勘でいきましょう。」
 きっぱりと言ったのは、湯之原であった。
「いえ。私の方がお願いしたのですから。」と由梨花の気持ちは焦った。
 この時、何も言わずに、メニューを広げて湯之原の前に差し出したのは入江美佐子であった。そして、小さな声で「入江美佐子と申します。東条さんと同じ職場で仕事をしています。」と言って、中腰になって、頭を下げた。
「そうそう。経理課の新人、入江さんです。」と由梨花は補足した。
「よろしく、お願いします。」と再び、湯之原は気さくに応じた。
 湯之原は焼酎のお湯割りを注文し、由梨花は生ビール、美佐子は果汁ノンアルコールであった。注文した品物が来るまでに湯之原は単刀直入に質問した。
「東条さんのスマホから、何も操作していないのに音楽が流れることがあると、福村から聞きましたが、本当ですか。」
「ええ、今日もロッカールームにいたら、音楽がいきなり流れたのです。ここにいる入江さんも聴いていましたから、確かです。そうね、美佐子さん。」
 美佐子は何も喋らずに頷いた。ここで由梨花はショルダーバックからスマホを取り出した。すかさず、湯之原は「見せていただけますか。」と手を出した。一瞬の戸惑いが由梨花に出た。何故なら、自分の分身みたいに思っているスマホを男性に手渡したことがなかったからである。スマホの修理業者に渡すのではなく、初対面の湯之原の手元に渡ることに躊躇したが、小川を飛び越える決意で手放した。湯之原は指先でタッチしながらも、裏返したり、斜めにしたり念入りに観察し始めた。

  • アメショ

    アメショ

    2018/01/24 06:07:42

    上手い。
    不思議な携帯を、初見の奴に、見せる、心理。圧巻だ。
    この小説は、文庫で、流行りそうだ。