ごま塩ニシン

おすがり地蔵尊秘話(11)

自作小説

 老婆と言っては言い過ぎかもしれない。農作業で鍛えた足腰で十歩ほど歩いて座敷の縁側のガラス戸を音たてて、開けたかと思うと、さっと草履を脱ぐと、座敷に上がり込んで座布団を二枚並べた。
「ちょっと、お茶でもご用意いたします。」
 こう言って、奥へ消えてしまった。
「直ぐに案内してもらえると、思っていましたが。」
 私が、こう感想を述べると横谷青年は、のんびりしたものでニヤッと笑った。
「喉も乾きましたでしょう。お茶でもいただきましょう。それに何ですよ。あのお婆ちゃんは、ゆったりした雰囲気ですが、なかなかの切れ者です。若い頃は証券会社の営業マンをしてましてね。大きな勝負をしていた経験の持ち主なんです。私は御婆ちゃんの武勇伝を聞かされたことがあります。今は現役を引退されて、何年も経ちますから、おとなしいもんですが、人を見る目は鋭いですよ。」
「ほおー。なるほどね。」
 私は貸主から面接を受ける立場なので、縁側に腰をかけて、前方に広がる裸の田圃を眺めていた。だいぶ暖かくなってきたが、田植えが始まる季節ではない。
「お待たせいたしました。」
 こう言って、老婆はお茶を出してくれた。小皿に干し柿がのっていた。
「いただきます。」
 私が湯呑を口に運ぶ動作を、老婆はしっかりと観察していた。まるで全身を嘗め回されているような気分であった。この年になって、値踏みされるのかと感じた。
「なんですな。こんなこと言うのは失礼かもしれませんが、あんさん、なんぞ家庭内のことで、悩みごとを抱えておられるのと違いますか。」
 老婆はずばりと痛い所を衝いてきた。一瞬、私は横谷青年の顔を見た。事前にお婆さんと打ち合わせをしているのか、こんな不安が走った。ここへ来るまでの状況としては、不動産屋の店頭からの会話だけであった。横谷青年は下見訪問の打ち合わせをしただけだった筈である。人を見る目が鋭いと言ったが、婆さんの目は御見通しなのかと私は観念した。隠さずに事情を話そうと腹をくくった。私は正直すぎるほどに辛抱ができない性格なのである。

  • アメショ

    アメショ

    2018/02/13 07:04:12

    なんで文章が田舎?。


    今、私、なるべく麦茶飲んでます。健康。