ごま塩ニシン

おすがり地蔵尊秘話(19)

自作小説

 2種間ほどが、あっという間に過ぎ去った。だが、小説の方は、書き始めてはポイ捨ての状況で思い通りに進捗しなかった。夜遅くなっても、寝られないので久しぶりにラジを聞くことにした。音楽番組の後にニュースが流れてきた。闇金のアジトが警察の一斉捜査で摘発されたという内容であった。
 私は義弟の古川静次のことを思い出した。藤森勇気弁護士の事務所へ行くように指示しておいたが、そういえば、その後どうなったのか、連絡を受けていなかった。それなりの手続きをしてもらっていると信頼している。闇金以外にも、三流の金融機関からも借りているだろうから、払い過ぎた法定外利息があれば、戻してもらっているだろうと想像できた。それにしても、何の連絡もしてこない古川静次の性格が気に喰わなかった。せめて、ありがとうございましたと感謝の気持ちくらい言ってくるべきだろう。
 静次の面倒をみるのは妻の弟だという義理からで、特別な思い入れはなかった。こう考えると秀子のことが再び思い浮かんできた。多分、俺が家を出て間もなくに自宅に戻っていることは想像できた。ところが優子からも何の連絡もない。これは一体どうしたことだろうか。故意に無視されているのかもしれない。秀子のことだから、いくら言っても、自分の意志を貫く夫だから、小説が完成するまで放置しておいた方が本人のためにも、いいのだろうと考えているかもしれない。恐らく、こうした結論に優子も暗黙の了解をしているのかもしれない。こんな風に類推していると追い込まれている自分の姿が寂しく思えてくるのであった。その夜は、あれこれ考えている内に寝てしまった。
 私の耳元でスマホが鳴って、目覚めた。外は明るくなっていたが、まだ、明けきっていない時刻であった。
「もし、も、」と言いかけた時であった。秀子の引きつった声が飛び込んできた。
「あなた。静次が夜中に轢き逃げにあって、さっき、警察から連絡があって、死んでしまったのよ。わあああー」
 絶叫するように秀子は泣いた。
 私は言葉を聞き間違えたというより、夢と現実との照合が出来なかった。
「轢き逃げ?どこで。警察から。死んでしまった。」
 私は言葉を区切って、自身を納得させるように繰り返した。言葉の意味する情景が一度に繋がらなかったのである。