夜霧の巷(9)
菅原慎一郎は夕方の五時頃、伯母の家に戻った。陽が沈まない内に帰宅するのは珍しいことであった。彼は大学生の古宮雄太からのメールを待っていた。ユーチューブにアップしなかった未公開画像を詳細に検討するために3万円で買ったのであった。この理由は、理屈よりもルポライターとして何か掴み出せないかという焦りに似た直感であった。というのは、もし警察の捜査が、港での溺死体を事件として扱うことになれば、古宮の持っている映像証拠が押さえられるかもしれないという危惧があったからだ。
「シンちゃん。どうしたの。早いね。」
伯母の早水陽子は応接間にいた。
「偶には、いいでしょう。」
「そうね。こんなに早く帰って来るのなら、由梨花ちゃんを呼んで、一緒に夕食を食べようか。あんた、肉好きだよね。あの娘に買ってきてもらうから。」
「いえ。そんなに気を遣ってもらわなくても、いいですから。」
「なにを遠慮してるの。」
こう言いながら、伯母はカモメの店長をしている浜田由梨花を呼び出して、用事を言いつけた。伯母というのは慎一郎の母親の姉で、早水家に嫁いだ。早水家には男の兄弟が二人と娘がいたが、この娘の寿美子が結婚した相手が浜田菊次郎であった。由梨花は女姉妹の次女で母の寿美子が経営しているコーヒーショップで働いていた。伯母の陽子はお茶と花の先生をしていたので由梨花も伯母の弟子でもあった。
早水家は戦前から建設業をしていたが、中堅企業としての経営が難しくなった時期に銀行の仲介で合併し、新陽建設株式会社という新会社になっていた。定年後に亡くなった伯母の夫の早水正信は、この新陽建設の専務取締役をしていた。合併した会社だから、銀行の意向もあって人事面でのバランスのためか、社長にはなれなかった。正信の弟の政次郎は官僚になっていた。ただ、正信は先祖の土地を活用して商業用の7階建ての賃貸ビルを残してくれた。亡き夫の正信が定年後、気楽な生活を夢見ていたに拘わらず、ガンで早世したものだから、夫に代わって陽子が安楽な経済基盤を受け継いでいた。
アメショ
2018/04/10 13:00:38
出た。
ようつべ。
早水(はやみずって、名も、技あり。
経済気基盤ですか。