練習曲はつまらない
ピアノの有名な練習曲集に、ツェルニー(チェルニー)というのがあります。
ツェルニーというのは、この練習曲を作曲している人の名前ですが、幾つかの曲集があり、定番は30番、40番、50番という三種類で、数が大きいほど難しくなります。このツェルニーという曲集は、バイエルと並んで日本のピアノ教育の定番中の定番で、(近年は以前ほど使われなくなったらしいのですが)まともに日本でピアノ教育を受けた人で、ツェルニーをやらなかったなんて人は99%いないと思います。
が、バイエルもそうですが、致命的な問題が一つ。
つまらないのです。
練習曲である以上、テクニックを網羅的に習得することが命題ですから、曲として面白いか否かは二の次で作られていて、だからとにかくつまらなくて、にもかかわらずこれを徹底的に頭がおかしくなるほどやらされて、ピアノ嫌いになり、そしてピアノを挫折していく人が膨大にいたはずです。
そして世界に見ると、ツェルニーはそれほど使われておらず、特にイギリスやアメリカでは全否定と言って良いほど使われていないようです。要は、そんな音楽性のかけらもないような練習曲を淡々とやっても意味がない、と言う話です(基礎練習が意味がない、という事ではありません)。
確かにね。
でもこんなことを書いている私は、実はツェルニーが嫌いではありません。むしろ好きだと言って良いかもしれません。私自身は、ツェルニーを弾きこなせるようなテクニックは毛ほどもありません。ありませんが、それでもツェルニーは好きだし、だから実は「ツェルニーを弾く」どころか「ツェルニーを聴く」ことが好きなのです。
は? ツェルニーを聴く? 弾くではなくて? あたま大丈夫???
多くのピアノ経験者はそう言うだろうと思います。しかし、無味乾燥に思える練習曲も、曲の雰囲気を掴み豊かな情感を込めて弾くと、その印象は一変します。
またツェルニーは非常にテンポの速い曲が多く、書かれた当時よりも鍵盤が重たくなっている現代では、指定通りの速さで全曲を弾きこなすのは不可能とも言われているようです。でも、和音やオクターブが少ない(典型的な古典派の作曲で、ツェルニーがロマン派以降の曲に対応できないと言われる所以ですが)代わりに、アルペジオが多用されるそれは、指定された超スピードで弾きこなすことが出来ると、まるでリストかショパンでも聞いているのかとも思ってしまう、波打つような高揚感が出てきます。
私はベースの練習をするとき、引き始めのに準備体操のような練習をします。80bpm程度の極めてゆっくりしたテンポで、4本ある弦の一番低音の弦の一番低い音から半音ずつ(ピアノで言えば、鍵盤一つ分づつ)人差し指、中指、薬指、小指と順番に動かし、小指まで行ったら一つ上の弦で同じことをして、一番高音の弦まで行ったら今度は逆に降りて来る。これが一通り終わったらスタート位置を半音ずらして同じことを続けて(ピアノで言うと、ドから始めて終わったら同じことをレから、と続ける)、一番高音のところまでひたすら繰り返します。ひたすら同じテンポで、半音ずつ音階を上がったり下がったり繰り返すだけ。恐ろしく単調な練習です。これが楽しいなどと言ったら、アホかと思われること請け合いです。
が、私はこれが好きなのです。楽しいw
初めの80くらいのテンポでもそうなのですが、120、130くらいになってくると気持ち良くなるのです。左手の4本の指で弦は押さえますから、いちおう4音がひとまとまりになるわけですが、そうすると徐々にこの4音が4拍子的になってきて、なんの抑揚もメロディーもないはずなのに、なぜかスイングするような感覚になってきて、体がユラユラと揺れて来るのです。この時、体が動かせるように座らず立って弾くことが大切です。そうなってくると、単調なだけにミニマル音楽でも演奏しているような感じになってきて、すごく気持ちいい。
所詮は趣味での演奏ですから、そんな呑気なことも言っていられるのかもしれません。プロを目指し、苦行のような毎日を365日過ごしているピアニストに違和されば、なにを戯言をということかもしれません。いや、たぶん本当にそうなのでしょう。でも、やっぱり私はツェルニーが好きだし、ベースの準備練習が好きなのです。そしてそれが、音楽練習の肝なんじゃないかと思ってます。
わたし、ご多分に漏れずショパンが好きなのですが(日本人はショパン好きだよね)、でもショパンだって単に音符と記号をなぞるだけの機械のような弾き方をしたら、それはただの指の運動のためだけの練習曲と何もかわらないんじゃないかと思います。
どう弾きたいのか。その意思次第なんじゃないでしょうか。
もえーん
2018/05/03 21:38:10
特に子供の時は、やっぱり教える側の意識と力量が大事なんだと思います。音楽もスポーツと同様で、つまらない練習曲を苦行の様に淡々と延々とやり続けた先に能力の開花がある、と言うまさに千本ノックのような発想が強かったんだと思いますが、やっぱりそれでは駄目なのです。それなりに大成したピアニストは、たとえツェルニーであっても音楽的に弾くということを教わっていたようですよ。
スゲ子
2018/05/03 16:39:58
子供のときにピアノ習ってました。練習曲ってつまらないしそもそも曲なのかって思ってました。
大人になってしばらくぶりに思い出したときにひいてみると、指がつまずいたりしちゃって、
練習して慣らさないと、そのように動けなかったりします。
つまらないけど練習曲って必要なんだなーって思いました。
もえーん
2018/05/02 22:33:19
読み直して、なんか違うなと思ってます。そういうことじゃない気がする。
もえーん
2018/05/02 16:18:55
ちなみに、ツェルニーはもともとはベートーベンの弟子で、交響曲や管弦楽など大掛かりな曲も幾つか書いているのですが、初めてツェルニーのそういう曲を聴いた時は… 笑っちゃいました。
だって、まんまベートーベンなんだもん。