夜霧の巷(26)
この時、コーヒーショップ・カモメにカメラを構えた報道関係者がワ~っと入ってきた。コーヒーショップである以上、誰でも入れるから文句は言えない。警察関係者だけでなく菅原も揉みくちゃにされた。矢面にたった店長の浜田由梨花はテレビ各社に同じことを繰り返すだけであった。マスコミの興奮が収まるまで仕方がない。菅原はこう思って、隅のテーブルに腰を据えて、様子を見ているしかなかった。夕刻に発生した事件でもあり、ピストル殺人事件は大きく報道され、夜のテレビニュースに由梨花の顔が何度も映し出されることになった。
「由梨ちゃん。今日は早めに閉店したら。」
菅原は騒動の受け皿になって辛抱していることもないだろうと由梨花に助言した。相当に疲れたのであろう。由梨花は即座に反応して通常より2時間も早く閉店して叔母の家に二人は避難した。
出迎えた早水陽子は「今日は災難だったね。」と気持ちよく迎え入れた。
「テレビのニュースを見ていたら、由梨花の顔が出てくるものだから、びっくりしたわ。こちらに被害がなくてよかった。店にピストルの弾丸でも飛び込んできたら、それこそ大変だったわ。」
叔母は二人の顔を見て、改めて興奮しているようであった。由梨花は家に上がらず、両親に事情は説明しておいたが、心配しているようなのでと早々に帰宅した。菅原はやっと一人になり、冷静を取り戻した。この事件をどう分析するかである。
この時点ではピストルによる射殺事件の背景については、逃走した車を警察が捜査しているとしか報道されていなかったが、翌日の朝刊を見て、菅原は事件の背後には根深い争いごとがあると思った。それは、あの運河で転落して湾内で溺死体となって発見された信太盛太郎の死と関連性があるのではないか。ルポライターを目指す菅原の探求精神の扉が開いた瞬間であった。
スローアウェイ
2018/07/10 22:51:34
はじめて『夜霧の巷』よみました。これからが楽しみ!