ごま塩ニシン

夜霧の巷(27)

自作小説

 菅原の眼を輝かしたのは地元紙の「港タイムス」の紙面であった。大手と違って、地元ならではの視点が出ていた。他紙に先駆けて、ピストルで撃たれたのは地域経済研究所勤務の青垣勇作と氏名入りで断定していた。これは驚きであった。青垣といえば、運河の橋の上で信太盛太郎と車で接触しそうになった時の運転手ではないか。しかも、彼は後日、警察の交通課に誤解されては困るからと当時の状況を説明したいと、わざわざ名乗り出た男ではないか。なぜ、この男が狙われたのか。この背後に裏利権の勢力争いがあるのではないだろうかと「港タイムス」の記事は踏み込んで書いていた。どのような利権なのかは記事にない。新聞の役割は事実報道だけで、尾鰭のついた解説はこうした事件ものに必要ではない。菅原はルポのターゲットが見つかったと思った。
 この事件を担当している二宮健次刑事は高校時代のラグビー部の後輩でもあることから、菅原は自分の手の届く範囲で事件が発生しているように思えた。この菅原の考え方が、いかに安易であったか、後日知ることになるが、夜霧は深く、迷い込めば方向を見失ってしまうものなのである。
 「地域経済研究所」を検索して、菅原は事務所のあるビルへ取材に出かけた。ところがビルの入り口に警察官が立哨警戒していた。古い三階建ての雑居ビルに入ろうとして警察官に止められた。
「どこへ、行かれます。」
「取材です。地域経済研究所へ伺いたいのです。」
「事件で殺気立っているから、マスコミ関係者は無理です。」
 警察官といっても体格のいい機動隊員から、手で、あっちへ行けと指示された。