【お話】はるか遠く、ずっと昔の。
夕焼けいろに染まる、天空の夢。はるか遠く、ずっと昔。もう誰も覚えていない物語を、書き綴ろう。
もらったステキコーデ♪:10
夢を見た。
はるか遠く、ずっと昔の。
もう誰も、覚えていない物語。
地球の記憶の、きれぎれの中にある、
誰かが夢見た、天空の夢を見た。
歌っていたのは、彼方の詩人。
夢のかけらが、響く。
きらきらと、しんしんと、笑い、喜び、抱き合って。
とおく、近くに。近く、とおくに。
空に伸びる石畳。
雲の切れ目に見える建物。
光が躍る、草木と花々の間を縫って。
せせらぎが笑う、喜びを繰り返して。
詩人は語る、天空の夢を。
世界に向けて、ただ語る。
歌は響いて、世界を作る。
時の輪の中に。世界の記憶の中に。
とおく、近くに。近く、とおくに。
その夢を、書き綴ろうとする端から、
ぽろぽろと、はらはらと、世界はほどけ、
手元には、何も残らなかった。
ただ、立ち尽くす。
消えてゆく、消えてゆく、詩人の歌。
終わりが来るのは知っていた。
知っていたけれど、夢の終わりを、わたしは惜しんだ。
この夢は留められないのか、とわたしが問うと、
なぜ、その必要があるのか、と詩人が答えた。
わたしは、わたしの歌を、歌い切った。
風も、空も、大地も。その瞬間を愛おしんでくれた。
それで良い。それで十分なのだと、詩人は笑った。
ああ、世界よ。命のめぐる輪よ。
わたしはどれほど愛したことか。
新たに輪がめぐり、新たに命がめぐる。
時のなか、失われるものはなく、
ただそこに在る、それだけが、ただ、美しい。
そう言って、詩人は消えた。
天空の世界が、夕焼けいろに染まる。
気が付けば、わたしは、自分の部屋にいた。
詩人の言葉は、真実だろう。
人の目にはついえたように見えたとしても、
夢は、決して失われることはなく、
めぐりめぐってゆくのだろう。
それを知っていても、なお、
わたしは、ついえた夢を惜しむことを、やめられない。
夢のかけらを、探すことを、やめられない。
今も歌は響く。地球の記憶の中で。わたしの記憶の中で。
とおく、近くに。近く、とおくに……。
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今日、六月十日は時の記念日だそうで。
それっぽいお話をつけてみました。