Ben日記

ベンクー

思ったこと、感じたことの日記

タケシの武勇伝…(12)

自作小説

スクリーンには、最後の打者を三振にしとめてガッツポーズするタケシの姿があった。打者21人をパーフェクトに抑えた瞬間だった。


「北野くん、これ覚えてるよね……スゴかったよ、君は!」

シンさんは、車椅子から身を乗り出しながら食い入るようにスクリーンを見ていた。あきらかに興奮しているのが分かった。


だが、タケシは見ていなかった。それどころか、不愉快さいっぱいの面持ちでシンさんの背中を睨みつけていた。


映像はものの数分で終わり、すぐに部屋の中が明るくなった……


「シンさん、悪いけど俺帰るわ!」

タケシは、手にしたプリントの束を差し出しながら不愉快な口調で言った。


「別に悪気があって見せたわけじゃないんだ…でも気を悪くしたなら謝るよ。ごめんね…」

タケシの態度の変化に気づいたシンさんは、両手を振りながらこう言った。


「シンさん、俺プリント渡しに来ただけだから…」

シンさんのひざにプリントを置いたタケシは、クルリと背を向けてさっさと出て行こうとした。


「北野くん、待って!君はもう一度投げたいって思わないかい?」


シンさんの言葉に足を止めたタケシは、半ばキレかかった気持ちでシンさんの前に左手を突き出した。


「シンさん、分かるかい。俺の中指はもう動かないんだぜ……シンさんが病人じゃなかったらブン殴ってるよ!」

タケシはこう言って、突き出した左手をギュっと握って見せた。曲がらない中指のせいで力の入らない左手はプルプル震えていた。


左手を見たシンさんはもう一度身を乗り出すと、今度は力を込めて話し始めた。


「知ってるよ手のことは!でも、僕は君の手を治したいんだ。君の姿をもう一度見たいんだよ!」


シンさんの青白い頬に、うっすらと紅みが差していた。


※※つづく※※